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2011/6/8

総合 - ドイツ経済ニュース

エネルギー転換政策を閣議決定、送電網敷設の認可権限は国に一元化

この記事の要約

原発の全廃と再生可能エネルギーの拡充強化に向けた政府法案が6日の閣議で承認された。最大野党の社会民主党(SPD)は基本的に支持する姿勢を示しており、法案は今後、連邦議会(下院)と州の代表で構成される連邦参議院(上院)で可 […]

原発の全廃と再生可能エネルギーの拡充強化に向けた政府法案が6日の閣議で承認された。最大野党の社会民主党(SPD)は基本的に支持する姿勢を示しており、法案は今後、連邦議会(下院)と州の代表で構成される連邦参議院(上院)で可決される見通しだ。政府は「未来のエネルギーへの道」と題した政策文書中に「わが国は高効率で再生可能なエネルギーシステムへの転換を主要先進国で初めて実現することができる」と明記、経済大国では他に例のない取り組みの意義を強調した。一方、国際社会からはドイツの「単独行」への懸念と不理解の声が聞こえてくる。

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政府はエネルギー安定供給の確保、適切な電力価格の維持、二酸化炭素(CO2)排出削減目標の維持という3つの観点から原発廃止の可能性を検討し、2022年末までに実現できるとの結論に達した。国内原発17基のうち現在稼働停止中の8基は原則として発電を再開せずに廃炉とする。残り9基も段階的に運転を停止する計画で、ドイツはこれにより国内発電総量の22.5%を失うことになる(2010年ベース)。

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原発廃止で生じる発電能力の穴は主に再生可能エネルギーの拡充で相殺する方針で、電力消費に占める再可エネの割合は2020年までに現在の17%から最低35%へと引き上げる。その中心を担うのは洋上風力発電で、政府はドイツの海域に設置される計10カ所の発電パークに総額50億ユーロの支援プログラム「Offshore Windenergie」を実施する。陸上の風力発電設備についても発電能力を高めるリパワリングをバックアップする意向だ。

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ドイツには北部にしか海が存在しないため、洋上風力発電パークの電力は同国の南部まで送電しなければならない。このため政府は高圧送電網を計3,600キロメートル新設する計画。

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ただ、送電網の敷設計画はこれまで州当局が管轄してきた関係で、複数の州にまたがる敷設は行政上の手続きに時間がかかるという難点があった。政府は送電網の認可権限を連邦ネットワーク庁に一元化することでこうした現状を改める。

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また再可エネの発電量が天候に大きく左右されることを受け、最先端の石炭・天然ガス発電所を増やし、適正な電力需給バランスを維持する。再可エネの利用拡大に欠かせない蓄電・蓄熱技術の研究開発には2014年までにまず2億ユーロを拠出。エネルギーの有効利用を実現していく。

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政府はさらに、省エネを通してもエネルギーシステムの転換を推し進める方針で、暖房効率の向上に向けた改築への補助金総額を昨年の1.5倍強の年15億ユーロに拡大する。

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原発を廃止すると電力コストが上昇することに関しては、エネルギー集約型企業の負担を軽減し、ドイツの産業立地競争力を維持する方針だ。

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フランスは独への電力輸出に意欲

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ドイツの原発廃止政策に対しては、国外の原発で発電された安価な電力の輸入をもたらすだけだとの批判がある。政府はこれに対し、「原発由来の電力の輸入は選択肢にない」としている。ただ、欧州連合(EU)域内の原発で発電された電力の輸入を禁じることはEU法上できない。このため民間企業が安価な電力を大量に輸入する可能性は十分に考えられ、原発大国フランスのサルコジ大統領はドイツに電力を売り込むチャンスとの見方を示した。

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ドイツが原発廃止への舵を短期間で切ったことに対しては、国際エネルギー機関(IEA)の田中伸男事務局長が6日、欧州全体のエネルギー安全保障に影響が出るほか、EUのCO2排出削減目標の実現も危うくなるとの見解を示した。フランスのベッソン・エネルギー相も同様の危惧を表明している。

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独政府はエネルギー転換政策の進捗状況を毎年、検証していく。そのかなで政策の大幅修正を余儀なくされるのか、それとも新しい時代を先取りしたとの確証が強まるのかが注目されそうだ。

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