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2011/9/28

総合 - ドイツ経済ニュース

EFSFへの融資保証拡大に市民の大半は反対

この記事の要約

財政危機に陥ったユーロ参加国に緊急金融支援を行う総額4,400億ユーロの「欧州金融安定基金(EFSF)」の機能強化に向けたドイツの国内法案が29日の連邦議会(下院)で採決される。メルケル政権内には造反の動きがあるものの、 […]

財政危機に陥ったユーロ参加国に緊急金融支援を行う総額4,400億ユーロの「欧州金融安定基金(EFSF)」の機能強化に向けたドイツの国内法案が29日の連邦議会(下院)で採決される。メルケル政権内には造反の動きがあるものの、野党の社会民主党(SPD)と緑の党は賛成票を投じる方針のため、圧倒的な多数で可決されるのは確実とみられている。だが、ドイツ市民の大半はEFSFへの信用供与拡大に反対しており、政治エリートと市民の意識のかい離は鮮明だ。財政悪化国への支援が今後、なし崩し的に拡大していくと、ユーロという欧州統合プロジェクトそのものが足元から大きく揺らぐ恐れがある。

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ユーロ圏17カ国は7月21日の首脳会議で、EFSFの機能を強化し、危機に陥った国の国債を流通市場で買い取れるようにすることで合意した。また、対象国が危機的状況に陥る前に緊急融資を行えるようにするほか、EFSFの信用供与能力を引き上げるために加盟国の融資保証枠を従来の4,400億ユーロから7,800億ユーロへと拡大することも取り決めた。

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独連邦議会で採決されるのはこの合意で、ドイツの融資保証枠は従来の1,230億ユーロから2,110億ユーロへと大きく引き上げられる。

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これらの措置に対するドイツ市民の評価は否定的で、公共第2放送ZDFのアンケート調査では75%が融資保証拡大に反対と回答した。ギリシャのデフォルト(債務不履行)をEUが容認することについては反対が50%で賛成の41%を上回ったものの、これはデフォルトが起こるとドイツが経済的にしわ寄せを受けるとの判断が働いているために過ぎず、そうした判断の回答者は68%を占めた。

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EU加盟国間の関係緊密化を好ましく思わない傾向は欧州委員会が2~3月に実施した域内市場に関する市民アンケート調査の結果からも読み取れる(グラフを参照)。

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それによると、EUは「異質な国々を含み過ぎている」との回答はEU27カ国平均が55%だったのに対し、ドイツは63%と8ポイントも上回った。また、域内市場の影響で「労働条件が悪化した」もEU平均より5ポイント高い。「(域内市場の効果で)生活水準が向上した」と感じる市民(34%)はEU平均(39%)を大きく下回っている。

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域内市場は人、モノ・サービス、労働力、資本の自由な移動(4つの自由)を柱としており、欧州統合の要と位置づけられている。主要政治家は域内市場とユーロがドイツにもたらす経済的な効果は他国よりも大きいと訴えるが、市民の意識とは大きく隔たっているようだ。

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独仏の格付け引き下げも

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レバレッジを活用してEFSFの信用供与能力を大幅に強化するとの議論がEU当局やユーロ加盟国内から最近、出始めていることは、こうした傾向を加速させる恐れがある。ユーロ加盟各国の財政・税負担が大きく膨らみかねないためで、スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は26日、現在最高の水準にあるドイツやフランスの格付けの引き下げにつながる可能性を指摘。ドイツに対しては自らの経済力を過大評価しないよう警告した。

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ユーロの他の加盟国に目を向けると、フィンランドはギリシャ融資で担保を要求。オランダのルッテ首相は財政規律を守れない国をユーロ圏から離脱させることを提言した。背景にはともに、財政悪化国への支援に拒否反応を示す国内世論がある。

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ドイツでも18日のベルリン州議会選挙で泡沫政党と目されていた海賊党が議会進出を果たした。週刊誌『シュテルン』と民放RTLの世論調査では、国政選挙で同党に投票するとの回答が7%に達している。海賊党を支持する有権者の8割以上は「他の政党を信頼できなくなったため」と答えており、市民の間に既存政党離れが起こり始めていることがうかがわれる。

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ユーロの改革は必要で、それには財政悪化国も支援国も多かれ少なかれ痛みが避けられない。だが、改革の実効性を優先するあまり大きなリスクを冒すと、加盟国内で危険なポピュリズムが台頭する恐れがある。

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