オフィスのカギなどを従業員に貸与することは多くの会社で行われている。そうしないと、従業員の出社前に社長が毎日カギを開け、夕方も最後の社員が退社するまで事務所に残っていなければならなくなるためだ(近代的な入退室管理システムを導入すればそうした必要もないが)。では、預かったカギを社員が紛失した場合、賠償責任は発生するのだろうか。ここではラインラント・ファルツ州労働裁判所が6月に下した判決(訴訟番号: 2 Sa 100/11)に即してこの問題をお伝えする。
\裁判を起こしたのは流通会社を2010年2月15日付で退職した元社員。退職に際して借り受けていたアラーム装置用のリモコンと入退室管理システム用のカギを返還できなかったため、雇用主は最終給与を支払わなかった。元社員はこれを不当として提訴。被告企業も損害賠償を求めて逆訴訟を起こした。
\被告企業はリモコンの再プログラミングを業者に委託し97.5ユーロを支払った。入退室管理システムについては交換せず、交換には3,074.45ユーロを要するとする外部企業の見積書を裁判で提示した。
\第2審のラインラント・ファルツ州労裁は、リモコン再プログラミング費用については原告に損害賠償義務があるとして、全額(97.5ユーロ)の支払いを命じた。被告企業がセキュリティを保つために実際に費用を投じて再プログラミングしたことを賠償義務発生の根拠としている。
\一方、アラーム装置については、原告の元社員に賠償義務はないとの判断を示した。被告企業がカギ紛失の事実を知ったのちも入退室管理システムを交換しなかったため、新しいシステムに交換しなくても防犯上問題なしと裁判官は判断したのである。交換の必要がなければ、原告に賠償義務は生じないという論理だ。
\最高裁への上告は認めていない。
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