電気自動車(EV)バッテリー冷却システム向けの新たな冷却液を、フラウンホーファー環境・安全・エネルギー技術研究所(UMSICHT)が開発した。「CryoSolplus」と名付けられた同冷却液は、潜熱蓄熱材(PCM)であるパラフィンを微粒子化して界面活性剤とグリコールを添加した水溶液に分散させたマイクロ粒子懸濁液(スラリー)で、水に比べ2~3倍の熱吸収性を持つ。製造コストは従来の水冷式冷却システムをわずかに上回る程度という。
\バッテリーは温度が低すぎると電力供給量が下がり、高すぎると耐久年数(寿命)が短くなるため、温度管理が重要だ。UMSICHTによると、バッテリーが最も長持ちする温度は20~35度の範囲で、45度で使い続けると寿命は半減するという。バッテリーの性能を引き上げることで本体内部からの発熱を抑えることは可能なものの、真夏の炎天下など過酷な環境でもバッテリー性能を最適に保つには、効率の高い冷却システムが必要になる。
\EVバッテリーの冷却システムでは主に空冷式が用いられているが、◇熱伝導率が低く熱を奪うスピードが遅い◇外気が十分に当たるようバッテリーセル同士の間隔を多めに取る必要があり、結果としてバッテリーパックの体積が大きくなる――という難点がある。一方、水冷式は熱を奪うスピードが速くセル同士の間隔を狭められるメリットがあるものの、車に搭載できる水の量には限界があり、水温が上がり冷却性能が落ちやすい。
\UMSICHTの研究チームはこうした事情を踏まえ、水を上回る熱吸収性をもつ冷却材としてPCMに着目した。PCMは固体・液体の相変化で生じる潜熱(融解熱・凝固熱)を吸収・放出することで温度を一定に保つ素材。蓄熱ボードなど断熱建材ですでに実用化されている。
\UMSICHTは微粒化したパラフィンを界面活性剤でくるみ、安定剤として少量のグリコールを添加した水溶液に分散させることで、水のように柔軟でありながら冷却性能は水を上回るCryoSolplusの作成に成功した。最大の難関は、水溶液を循環させても分離を起こさない安定した界面活性剤の開発と、水より軽いパラフィンをいかに均質に水溶液中に分散させるかだったという。
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