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2012/7/18

総合 - ドイツ経済ニュース

スイスとの租税協定、批准のメド立たず

この記事の要約

脱税問題の解決に向けてドイツがスイスと調印した租税協定に大きな壁が立ちふさがっている。連邦参議院(上院)で過半数票を握る野党・社会民主党(SPD)と緑の党は当初から批准を拒否しているうえ、両党が政権を握るノルトライン・ヴ […]

脱税問題の解決に向けてドイツがスイスと調印した租税協定に大きな壁が立ちふさがっている。連邦参議院(上院)で過半数票を握る野党・社会民主党(SPD)と緑の党は当初から批准を拒否しているうえ、両党が政権を握るノルトライン・ヴェストファーレン(NRW)州はスイスの銀行を利用した脱税容疑者のリストの新規購入を前向きに検討。協定を成立させるよりも捜査を通して脱税者に追徴課税する方が税収や取り締まりの効果が高いとして、批准を目指すドイツ政府の方針に真っ向から対立している。

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ドイツ政府は昨年9月、スイスとの租税協定に調印した。スイスの銀行を利用したドイツの納税義務者の脱税を防止するのが柱で、過去の脱税についても追徴課税が行われる。両国は現在、批准手続きを進めており、2013年1月の発効を目指している。

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ドイツでは所得税などの税率が高く、これを嫌った富裕層は租税回避地(タックスヘイブン)であるスイスやリヒテンシュタインの銀行に資産を隠匿してきた。今回の協定はこうした手口による脱税をできなくするもので、ドイツ在住者がスイスに持つ預金には今後、ドイツ国内の金融資産と同じ税金(金融資産税と連帯税で税率は計26%強。キリスト教徒であれば教会税も加わる)が適用。銀行口座から源泉徴収されて独税務当局に送金される。

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過去の脱税に対しては21~41%の追徴課税が行われる。各人に適用される税率は脱税の期間と金額に応じて異なる。この措置によりドイツの入る税収を独政府は約100億ユーロと予想。そのうち30億ユーロは連邦(国)、70億ユーロは州に入ると試算している。

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スイスに銀行口座を持つドイツの納税義務者の氏名は独当局に提供されない。これによりスイスは「銀行の秘密」(顧客に関する情報を守秘する義務と外部への情報提供を拒否する権利)を今後も維持できる。

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野党はスイスの銀行に強い不信感を持っており、同協定が発効しても盲点を突くなどして脱税ほう助を続けるとみている。また、協定が施行されると脱税容疑者に関する情報の購入が違反行為とされ、脱税を有効に取り締まれなくなる恐れがあると懸念。協定を「脱税者を保護するものだ」(緑の党のトリッティン院内総務)と批判する。脱税者の匿名性が維持されることも問題視している。

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クレディ・スイス顧客などを新たに捜査

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NRW州はこれまで、国外銀行を利用した大規模な脱税の捜査で先頭に立ってきた。ドイツポストのツムヴィンケル社長(当時)を含む富裕層1,000人の脱税捜査やスイス銀行ユリウス・ベアとクレディ・スイスの顧客を対象とした捜査はすべて同州の主導で行ったものだ。

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これらの捜査では違法な手段で入手された情報を当局が利用できるかが大きな議論を呼んだが、州政府も独政府も問題はないとして摘発に取り組んだ。その効果で、刑罰の軽減を期待して自首した脱税容疑者は2008年からこれまでに2万2,000人に上る。追徴課税の総額は20億ユーロを超えたとされる。

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NRW州の検察当局は現在、クレディ・スイスが関与する新たな脱税事件を捜査している。容疑者数は4,000~5,000人に上るとみられ、一部の容疑者はすでに家宅捜査を受けた。同行はこれらの顧客に対し、租税回避地で有名なバミューダの子会社を通して脱税をほう助してきた疑いが持たれている。

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同州の検察当局はこれとは別に、脱税容疑者のデータを新規に買い取ることも検討している。どの銀行の顧客データかは伏せているが、プライベートバンク・クーツのものとみられる。

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独政府はスイスとの協定調印を受け、違法取得データの捜査利用に否定的になっている。協定が発効すれば納税義務者がスイスに持つ口座から税金が自動的に徴収され、十分な税収を確保できると予想しているためだ。野党はそうした効果を小さいとみており、両者が歩み寄る気配は出ていない。

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