電機大手の独シーメンスが仏同業アルストムの電力設備事業を取得して自社の鉄道関連事業をアルストムに譲渡する計画に対し、疑問の声が出ている。経営上のメリットよりもデメリットの方が大きい恐れがあるためだ。従業員も事業交換に伴う人員削減を警戒している。
シーメンスは4月29日、アルストムから電力設備事業を買収する方針を正式に表明した。米競合ゼネラル・エレクトリック(GE)が同事業の買収を計画していることに対抗した格好。GEはアルストムを取得すると、欧州市場での存在感を大幅に高めることから、シーメンスはこれを阻止したい考えだ。
だが、シーメンスがアルストムの電力設備事業を手に入れても、両社の事業には重複が多く、統合には時間とコストがかかる。また、アルストムは大きな成長が期待できない欧州市場に足場がほぼ限定されていることから、シナジー効果も小さい。このため市場には、シーメンスはアルストムの当該事業を買収せず、将来性の高いアジア事業の強化に注力すべきだとの見方がある。
シーメンスは仏政府とアルストム従業員の意向を踏んで、買収後3年間はアルストムの事業拠点閉鎖と従業員削減を行わないことを約束している。これについてはシーメンスの従業員が懸念を示す。両社の事業が重複している以上、買収後の人員削減は避けられないとみられ、その場合はシーメンス側で行われる公算が高いためだ。アルストムへの事業買収提案を決めたシーメンスの監査役会は従業員代表の役員がこの懸念を示したため、長時間に及んだ。
GEの買収提案はアルストムの取締役会から支持されているうえ、買収提示額も123億5,000万ユーロと、シーメンスがアルストムに内示した100億~110億ユーロを上回る。シーメンスがGEを出し抜くにはGE以上の条件を提示しなければならない状況だ。経営陣はそこまでする価値があるのかを冷静に検討することを求められている。
GEによるアルストム買収にはフランス政府の閣僚などが懸念を示しているものの、GEはこれを踏まえ、買収後はフランスの雇用規模を拡大するほか、蒸気・水力・風力タービン事業および送電設備事業の世界統括拠点を同国に設置する方針を打ち出した。