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2014/5/21

総合 - ドイツ経済ニュース

ドイツ銀が80億ユーロ増資、投資銀行強化へ

この記事の要約

独最大手銀行のドイツ銀行が財務の強化を急いでいる。欧州連合(EU)の新たなストレステスト(健全性審査)を控えるとともに、不正金利操作への関与や訴訟がらみの引当金の大幅積み増しが避けられないことが背景にある。リスクが高い投 […]

独最大手銀行のドイツ銀行が財務の強化を急いでいる。欧州連合(EU)の新たなストレステスト(健全性審査)を控えるとともに、不正金利操作への関与や訴訟がらみの引当金の大幅積み増しが避けられないことが背景にある。リスクが高い投資銀行事業の強化方針を打ち出したことも大きい。

ドイツ銀は18日、最大80億5,000万ユーロの増資計画を発表した。すでにカタール王族系の投資会社パラマウント・サービシズ・ホールディングスが17億5,000万ユーロを引き受けており、残り63億ユーロを株主割当増資で調達する意向だ。

パラマウント・サービシズは新株およそ6,000万株を1株29.20ユーロで取得した。出資比率は約6%。安定株主となる考えを示している。

株主割当増資では最大3億株を発行する考えで、独金融監督庁(BaFin)の承認を経て6月5日に新規株式公開(IPO)目論見書を交付する見通し。

増資が計画通りに実施されると、ドイツ銀の狭義の中核的自己資本(コアTier1)比率は3月末の9.5%から11.8%に上昇する。

ラスベガスのカジノ売却

15日には米ラスベガスのカジノホテル、ザ・コスモポリタン・オブ・ラスベガスの運営会社ネバダ・プロパティ1 LLCを投資会社ブラックストーン・リアル・エステイト・パートナーズVIIに現金17億3,000万ドルで売却することを明らかにした。ドイツ銀は同ホテルで巨額の損失を計上しており、今回の売却は財務の改善につながる。

コスモポリタンは2010年にオープンしたカジノホテル。もともとは有力不動産事業者のブルース・アイクナー氏が開発を手がけたもので、ドイツ銀は7億6,000万ユーロの融資を通して関与していた。

リーマンショックをきっかけとする金融危機の影響でアイクナー氏が融資を返済できなくなったため、同行は建設中の同ホテルを取得せざるを得なくなった。ドイツ銀は同ホテルに総額39億ドルを投じたが、カジノ市場は金融危機で低迷。巨額の減損処理を余儀なくされた。

今回の取引が終了すると、同行のコアTier1比率はEUの第4次資本要求指令(CRD 4)ベースで約0.05%改善するという。

「欧州唯一のグローバルな投資銀行に」=CEO

ドイツ銀は低金利のほか、金利の不正操作や米不動産融資関連の訴訟で利益が圧迫されている。このため昨年28億ユーロ規模の増資を行い、コアTire1比率を増資前の8.8%から9.7%まで引き上げたものの、その後、再び低下している。昨年はこれらスキャンダル関係の引当金として30億ユーロ以上を計上した。業界情報として『ハンデルスブラット』紙が報じたところによると、今年も同程度の引き当てが避けられないもようだ。

EUが実施する新たなストレステストに絡んでは、不良資産の計算が当局の基準より甘いことが独連邦金融監督庁(BaFin)との協議で分かった。当局の基準に基づくと不良資産の規模が105億膨らみ、その分だけ自己資本比率が低下する。

こうした事情を受けて市場では同行に増資を求める声が以前から強く、格付け大手のムーディーズは自己資本比率を引き上げなければ評価を現在の「A2」から引き下げる意向を表明していた。

投資銀行事業の強化方針はアンシュ・ジャイン共同最高経営責任者(CEO)が19日の記者会見で明らかにした。投資銀行事業に対してはリーマンショックを受けて当局の規制が強まり、UBSやバークレイなど欧州の競合は同事業からの部分撤退や縮小方針を表明。ドイツ銀も事業規模の拡大を図らない意向を年初時点で示していたが、競合の事業縮小により事業を拡張するチャンスが出てきたと判断した。同CEOは「欧州に本拠を置く唯一の、真にグローバルな投資銀行になる」意向を表明した。特に米国事業を強化する考えだ。

投資銀行事業は金融システムと実体経済に大きなしわ寄せをもたらしうることがリーマンショックで明らかになったことから、同事業に対しては他の銀行業務よりも厳しい自己資本規制が課される。この事情も今回の増資を後押ししたようだ。

ドイツ銀は自己資本の強化に向け今年、コンティンジェント・キャピタルというタイプの債権(ココ・ボンド)を最大50億ユーロ発行する。ココ・ボンドは発行銀行の経営が悪化すると価値が下がり、改善すると回復する自己資本に類似する債権。

ドイツ銀のレバレッジ比率(総資産に対する自己資本の割合)は今回の80億ユーロ規模の増資により現在の2.5%から3.1%に上昇し、ココ・ボンドが加わると3.5%に達する。新たな国際銀行資本規制「バーゼル3」では2018年までに3%以上に引き上げることが求められている。