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2014/6/4

総合 - ドイツ経済ニュース

シーメンスが白物家電合弁から撤退か

この記事の要約

電機大手のシーメンスは自動車部品大手のボッシュと共同で運営する白物家電の合弁会社BSHボッシュ・ウント・シーメンス・ハウスゲレーテから全面撤退する考えのようだ。シーメンスは電力、オートメーション、デジタル化を軸に経営資源 […]

電機大手のシーメンスは自動車部品大手のボッシュと共同で運営する白物家電の合弁会社BSHボッシュ・ウント・シーメンス・ハウスゲレーテから全面撤退する考えのようだ。シーメンスは電力、オートメーション、デジタル化を軸に経営資源を絞り込む方針を先月上旬に打ち出しており、以前から非中核事業扱いだったBSHから早急に手を引きたい意向という。5月28日付『フランクフルター・アルゲマイネ(FAZ)』紙が報じた。両社はコメントを控えている。

BSHは1967年に折半出資で設立した両社の合弁で、世界市場シェアは8%、欧州市場シェアは25%に上る。シーメンスは持ち分50%をボッシュに売却する方向で交渉を進めてきた。昨年夏に退任したシーメンスのレッシャー社長(当時)はBSHからの撤退を検討したものの、見合わせた経緯があるため、交渉が始まったのは同社長の退任後とみられる。

BSHは同年8月に食洗機の大規模なリコール(無料の回収・修理)を開始した。これに伴い2013年通期決算で約1億ユーロの引当金を計上し、営業利益が前期の6億8,300万ユーロから5億ユーロ強へと大きく減少した。この事情もシーメンスの撤退方針を後押しした可能性がある。

ボッシュはシーメンスから持ち分を取得したい考えがあるものの、取引価格とブランド使用権をめぐり両社の溝が埋まらず、交渉は宙に浮いているもようだ。FAZ紙によると、シーメンスが保有するBSH持ち分の価値は最低でも50億ユーロに上る。

ボッシュは全事業をデジタル化する戦略の一環で、白物家電のデジタル化(スマートホーム)も推し進める方針を打ち出している。シーメンスはボッシュにとってBSHが持つ戦略的な価値の大きさを踏まえ、売却価格を引き上げたい考えで、これがボッシュ側の反感を買っているもよう。

ボッシュはBSHを完全子会社化したのちも、「シーメンス」ブランドの家電を販売したい意向を持っている。「ボッシュ」ブランドだけだと顧客基盤が狭まり、売り上げが伸びない可能性が高いためだ。ただ、合弁を解消すると「シーメンス」ブランドを使用できなくなることから、この問題でもシーメンスと交渉しているものの、合意できない状態が続いているという。

ボッシュとシーメンスの関係は両社の交渉が行き詰まったことで悪化しており、BSHの業務にも支障が出始めているようだ。

シーメンスのケーザー社長は本来、組織再編計画を発表した先月6日の記者会見で、BSHからの撤退を公表したい考えだったもよう。

生活文化がアジア勢の障壁に

ボッシュとの交渉が前進しないため、シーメンスはBSH持ち分を韓国のサムスンに売却する検討も開始した。サムスン製の白物家電はアジアで人気があるものの欧州では売れ行きがよくないため、サムスンはBSH持ち分の取得に意欲的で、すでにシーメンスと接触しているという。

白物家電は世界各地の生活文化と密接に関連している。このため、民政家電と異なりアジアのメーカーは欧州市場の開拓に苦戦。かつてテレビなどで欧州市場を席巻した日本メーカーも白物分野では大きな成果を上げることができなかった。

パナソニックはこうした課題を克服するため09年、独ヴィースバーデンに「欧州HA 生活研究センター」を設立した。白物商品を対象にした生活研究を行い商品コンセプトに反映させ、欧州市場での競争力を強化する狙いだ。サムスンもシュツットガルトに計20人規模の白物家電の研究拠点を持つ。サムスンが仮にBSHの資本50%を確保すれば、欧州攻略で大きく前進できる。

ただ、ボッシュは自動車用リチウムイオン電池の開発生産で08年にサムスンSDIと提携したものの、サムスン側との関係が悪化。12年秋に合弁解消に追い込まれた経緯がある。ボッシュが自動車以外の分野に用いるリチウムイオン電池の開発に向けてティッセン・クルップ、BASFと提携したことが原因とされるが、FAZ紙によると、文化の相違も影響したもようだ。