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2014/6/18

総合 - ドイツ経済ニュース

シーメンスが三菱重工と連携、アルストム買収計画を共同化

この記事の要約

電機大手の独シーメンスと三菱重工業は16日、仏同業アルストムのエネルギー部門に対する共同買収計画を発表した。米競合ゼネラル・エレクトリック(GE)のアルストム買収計画に対抗する提案。シーメンスは当初、買収の意向を単独で表 […]

電機大手の独シーメンスと三菱重工業は16日、仏同業アルストムのエネルギー部門に対する共同買収計画を発表した。米競合ゼネラル・エレクトリック(GE)のアルストム買収計画に対抗する提案。シーメンスは当初、買収の意向を単独で表明したものの、アルストムとフランス政府の同意を取り付けるには三菱重工と手を組んだ方が得策と判断し、今回の共同計画に踏み切った。GEの提案とフランスの国益を踏まえた内容となっており、GEは新たな提案を余儀なくされそうだ。

アルストムは発電用タービン、送配電機器などのエネルギー部門と、鉄道車両・信号システムなどの鉄道設備部門からなり、エネルギー部門が売上高(203億ユーロ)の70%を占める。同社は経営環境が厳しさを増し、将来的に単独で生き残るのが難しくなっていることを踏まえ、GEにエネルギー部門を売却する方針を固めた。GEとは事業の重複が少ないため、シナジー効果が大きく、取引成立後の雇用削減も小規模にとどまるというメリットがあるためだ。

GEは4月、アルストム経営陣と事前協議をしたうえで同社のエネルギー部門を123億5,000万ユーロで買収することを提案した。仏政府が国家にとって重要なアルストムのエネルギー部門が米企業に買収されることに難色を示したことを受けて、同社は政府の意向に歩み寄る姿勢を見せており、アルストムの水力発電システム事業については合弁会社化する考えを提示。風力発電システム事業についても合弁化ないし売却する意向だ。仏国有電力会社EdF、同原発会社アレバと関連が深い原子力タービン事業についても「顧客(EdFやアレバ)の利害を守る解決策を模索する」(GEの電力関係部門統括責任者)としている。また、水力発電、風力発電、蒸気タービン、送配電機器分野の世界統括拠点をフランスに置くほか、仏国内の雇用を1,000人拡大するとしている。さらに、アルストムが鉄道設備事業に特化する方針を打ち出したことを受け、自社の信号システム事業をアルストムに譲渡する考えだ。

シーメンスはガスタービン事業のみ取得

これに対しシーメンスは、GEに対抗してアルストムのエネルギー部門を買収する考えがあると4月末に表明。これまで買収計画の具体案を練ってきた。当初は単独で買収する考えとみられていたものの、アルストムの事業のなかには同社が取得したくないものが含まれるほか、事業分野によっては独禁法の規制に抵触する恐れもあるため、三菱重工との共同買収提案に踏み切った。

同提案によると、シーメンスがアルストムから取得するのはガスタービン事業のみで、39億ユーロを支払うとしている。シーメンスはまた、取引が成立した場合、鉄道設備事業をアルストムとの合弁に切り替え、同合弁の過半数資本をアルストムが握るようにする考えを示している。

一方、三菱重工はアルストムの蒸気タービン・原子力タービン、送配電機器、水力発電システム事業をそれぞれ両社の合弁会社に切り替えることを提案した。合弁3社ではすべてアルストムが過半数資本を確保。アルストムが現在の事業の大部分を保持できるよう配慮している。

三菱重工は同合弁化に31億ユーロを支払うほか、アルストム株を仏ブイクから最大10%譲り受け、安定株主となる意向だ。

シーメンスと三菱重工の買収・合弁化提示額は計70億ユーロで、GEの買収提示額を下回るものの、アルストムのエネルギー部門の時価を142億ユーロとしており、GEを18億5,000万ユーロ上回っている。

アルストムが三菱重工、シーメンスと共同で電力関連、鉄道設備分野の競争力を高められる点も大きなプラスポイントだ。GEの買収計画では、アルストムが鉄道設備の専門メーカーになったのちに競争力を高める道筋が見えにくい。

仏国内の雇用規模についてもシーメンス・三菱重工連合は計2,000人、拡大するとしており、同1,000人にとどまるGEの提案は陰に追いやられた格好。

メディア報道によると、GEは新たな提案の検討を開始したもようだ。

CC発電設備などで懸念

ただ、シーメンス・三菱重工連合の提案にも問題点はある。『フランクフルター・アルゲマイネ』紙が17日付で報じたところによると、アルストムの内部には(1)三菱重工がアルストムとの合弁に自社の事業を持ち込まないため、アルストムと三菱重工がタービン、送配電機器分野で競合する(2)ガスタービン事業をシーメンスに売却すると、アルストムの手元に残る他のタービン事業に支障が出る――との懸念が出ている。

(2)についてはアルストムがガスタービンと他のタービンを同一の工場(仏ベルフォール、独マンハイム、スイスのビルアーの3工場)で生産しているうえ、両タービン事業はサービス面でも切り離せないとの事情が背景にある。

ガスタービンと蒸気タービンを組み合わせたコンバインドサイクル(CC)発電設備をアルストムが自力供給できなくなることも問題だ。シーメンス・三菱重工連合はこの点について、アルストムと三菱重工の蒸気タービン合弁向けに当面はシーメンス製のガスタービンを供給し、将来的に三菱重工が同合弁にガスタービン事業を持ち込むことで解決できる、としているものの、アルストムは世界市場で競合関係にあるシーメンスが安定供給するかに疑問を投げかけているという。