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2014/6/25

総合 - ドイツ経済ニュース

アルストムのエネルギー部門はGEの手に

この記事の要約

仏重電大手アルストムのエネルギー部門をめぐる買収合戦は米ゼネラル・エレクトリック(GE)に軍配が上がった。フランス政府とアルストム経営陣がともにGEによる買収を支持したためで、GEは製造事業の再強化戦略を前進させるととも […]

仏重電大手アルストムのエネルギー部門をめぐる買収合戦は米ゼネラル・エレクトリック(GE)に軍配が上がった。フランス政府とアルストム経営陣がともにGEによる買収を支持したためで、GEは製造事業の再強化戦略を前進させるとともに、不調の欧州事業で巻き返しを図る意向だ。ただ、GEとアルストムの取引は独禁当局から事業の部分売却を命じられる可能性が高く、GEの買収計画に対抗した独シーメンスはそうした事業の取得を狙っている。

仏政府は20日、GEがアルストムのエネルギー部門を買収する計画を支持すると発表した。政府がアルストムに20%を出資し、筆頭株主となることの受け入れを条件としている。アルストムの取締役会も21日、GE提案の受け入れを表明しており、三菱重工業と手を組んでアルストムの同部門買収を目指したシーメンスは敗北した格好だ。

GEは4月末、アルストムのエネルギー部門を123億5,000万ユーロで買収することを提案し、アルストム取締役会の支持を取り付けた。だが、仏政府がエネルギー安全保障の観点から難色を示し、さらにシーメンスと三菱重工の連合が対抗案を出したことから、19日に新たな案を提示していた。

当初の案では、エネルギー部門をまとめて買収することになっていた。新提案では、買収するのはガスタービン事業と、フランス以外の蒸気タービン事業だけで、原子力タービン・国内蒸気タービン、送配電機器、再生可能エネルギーの3事業は、それぞれ折半出資の合弁会社に移管する。また、GEの鉄道信号事業をアルストムに売却する。原子力事業に関して、技術など重要問題について仏政府が拒否権を持つ。これらの取引でGEはアルストムに現金を計73億ユーロ支払う。

仏政府は同案を評価し、政府が仏複合企業のブイグが保有するアルストム株式29%のうち20%を取得し、筆頭株主となることを条件に、同提案に沿った取引を認める方針を打ち出した。GEはエネルギー分野での外資による買収の許認可権を持つ政府の支持を取り付けたことで、同提案に沿った買収、合弁会社設立が実現する見通しとなった。

同政府は当面、ブイクからアルストム株を借り受けて議決権を行使する。買い取りは株価が低下した際に行い、買い取り価格を抑制する狙いだ。フランスは財政が悪化しており、モントブール経済相は、納税者の資産(税金)は責任をもって取り扱わなければならないとの立場を示した。

合弁構想の違いが決め手か

シーメンスと三菱重工は16日、GEの買収に対抗して◇シーメンスが39億ユーロでガスタービン事業を買収◇三菱重工が蒸気・原子力タービン、送配電機器、水力発電の3事業に出資し、3つの合弁会社を設立し、31億ユーロを投資する――という提案を行った。アルストムのエネルギー部門を142億ユーロと評価した形で、同額はGEの当初の提案を上回る。GEが19日に新たな案を提示したことを受けて、20日に買収額引き上げを含む新提案を示したが、仏政府の支持を取り付けることはできなかった。

モントブール経済相は、三菱重工・シーメンス連合の案では、EU競争法に抵触する恐れがあることが大きな判断材料となったことを明らかにした。ただ、同相はそうした懸念があることを当初から分かっていたにもかかわらず、これまではGEよりもシーメンスによる買収に好意的な考えを示唆してきた経緯があり、取ってつけた説明という印象を否めない。

一方、アルストムのパトリック・クロン社長は『フランクフルター・アルゲマイネ』紙に、シーメンス・三菱重工連合の提案を退けたのは三菱重工が自社の当該事業を3つの合弁会社に持ち込まないためだと指摘。三菱重工の当該事業が同合弁3社と競合する懸念が決定的なマイナス材料になったと述べた。

GEとアルストムの取引は今後、世界の20以上の独禁当局の承認を得なければならない。その際、特にガスタービンと発電機分野で厳格な審査が行われると予想されるため、シーメンスなどの競合にはGE・アルストム連合が放出を命じられる事業を取得するチャンスがある。

GEの売上高に占める欧州事業の割合は2008年の24.2%を直近のピークに低下しており、13年には17.3%まで落ち込んだ(グラフ参照)。GEは今回の取引により、欧州での競争力を高める考えだ。

アルストムをめぐる一連の攻防のなかでは、シーメンスが中核事業である鉄道設備部門を条件次第では放出する可能性があることが分かった。ジョー・ケーザー社長は同部門の従業員間に広がった不安を鎮めるため、「鉄道設備部門を売却する考えはなかった。グローバル市場で勝ち抜ける欧州チャンピオンをアルストムと共同で創設しようとしただけだ」と火消しに努めているものの、同分野の合弁でアルストムが過半数出資者となる考えを打ち出したことは否定できない。このためシーメンスの鉄道設備事業の取得に関心を示す企業が出てくる可能性がある。