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2014/7/9

総合 - ドイツ経済ニュース

乗用車走行料金、一般・高速道の別なく課金へ=交通相案

この記事の要約

ドイツのアレクサンダー・ドブリント交通相(キリスト教社会同盟=CSU=)は7日、乗用車走行料金制度の構想を発表した。昨年12月の政権協定では課金対象を、高速道路を走行する車両に制限していたが、今回の発表では一般国道、州道 […]

ドイツのアレクサンダー・ドブリント交通相(キリスト教社会同盟=CSU=)は7日、乗用車走行料金制度の構想を発表した。昨年12月の政権協定では課金対象を、高速道路を走行する車両に制限していたが、今回の発表では一般国道、州道、市町村道にも拡大。ドイツの道路を利用する乗用車はすべて料金支払いが義務づけられることになる。2016年に導入し、道路財源を年6億ユーロ強、拡大する意向だ。

同走行料金はヴィネット方式で徴収する。ヴィネットは料金前払いの道路利用券で、車両に貼り付けることが義務づけられる。

ドブリント交通相は乗用車高速料金を国外だけでなく国内で登録された車両からも徴収する考えだ。以前は徴収対象を国外の車両に限定する意向を示していたが、周辺諸国からの批判や欧州連合(EU)法違反の懸念を踏まえ、国内の車両にも課金する考えに転換した。

ただ、国内で登録する車両の持ち主が車両税を通して道路財源を負担していることを踏まえ、国内のドライバーに新たな負担が発生することは回避する。このため、新たな道路財源はもっぱら国外登録車のドライバーが負担することになる。

ヴィネットの料金は有効期間が10日のもので10ユーロ、同2カ月のもので20ユーロとする考え。年間券については各車両の環境性能、排気量、車齢を加味して額を決める方針で、最高額は150ユーロとなる。交通相によると、平均額は88ユーロとなる見通し。

国内登録の車両は車両税の額がヴィネット料金の分だけ引き下げられる。また、車両税が免除されている電気自動車などの車両はこれまで同様、免除措置を受けられ、ヴィネット料金を支払う義務も生じない。

ヴィネットは国内登録車の所有者には年間券を郵送するか、登録時に交付する。国外登録車の持ち主はインターネットかガソリンスタンドで購入することになる。ただ、年間券をネットで購入する場合はドイツの所有者と同じ基準で料金が決まるが、ガソリンスタンドで購入する場合は一律料金が適用される。一律料金はガソリン車で103.04ユーロ、ディーゼル車で112.35ユーロ。

欧州委はEU法との整合性を吟味へ

ヴィネット料金は車両総重量3.5トン以下の自動車とオートバイが課金対象となる。現在すでに導入されているトラック走行料金は課金対象を同7.5トン以上としているため、同ヴィネット制度が実施されると、3.5~7.5トンの車両だけが課金対象から外れるという「ねじれ現象」が発生する。

ドイツでは乗用車に高速料金を課すべきとの主張がこれまでしばしばなされたが、国民の反発が強く実現はしなかった。それにもかかわらず政府与党がヴィネット導入を目指す背景には、ドイツで登録された車両が周辺諸国の高速道路を走行する際は料金を課されるのに対し、国外の乗用車はドイツの高速道路を無料で利用できるという問題がある。最小与党のCSUはこれを不公平と批判。連立パートナーであるキリスト教民主同盟(CDU)と社会民主党(SPD)の懸念を押し切って、国外乗用車への課金方針を政権協定に盛り込むことに成功した。

ドブリント交通相は今回の構想をEU法との整合性を念頭に置いて作成した。このため、欧州委員会は「肯定的な要素が含まれている」(広報担当者)と一定の評価を下している。ただ、車両税によるヴィネット料金の相殺を国内登録車の持ち主に認めるルールが国外登録車のドライバーに対する差別に当たらないかを吟味する考えだ。

隣接国からは批判が出ており、オーストリア政府は提訴の可能性を示唆している。与党内からも同構想を実施すると煩雑な事務手続きが生じるといった批判が出ており、今後の法案作りは紆余曲折が予想される。

また、ヴィネットの課金対象を今回の構想に従って州道と市町村道にも拡大すると、法案は連邦議会(下院)だけでなく、州の代表で構成される連邦参議院(上院)の承認も必要になる。連邦参議院の承認は、ヴィネット収入の分配で国(連邦)が州にどれだけ譲歩するかがカギとなりそうだ。