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2015/6/3

総合 - ドイツ経済ニュース

通信記録の保存義務で政府が法案承認

この記事の要約

ドイツ政府は5月27日の閣議で、通信記録の保存を通信事業者に義務づける法案を承認した。同法案は通信記録の保存義務を定めた旧法に違憲判決が下ったことを受けて作成されたもので、旧法よりもプライバシーに配慮している。ただ、同法 […]

ドイツ政府は5月27日の閣議で、通信記録の保存を通信事業者に義務づける法案を承認した。同法案は通信記録の保存義務を定めた旧法に違憲判決が下ったことを受けて作成されたもので、旧法よりもプライバシーに配慮している。ただ、同法案も人権保護が十分でないとの批判は強く、市民団体や野党は裁判を起こす方針だ。

欧州連合(EU)ではテロや組織犯罪対策の一環としてデータ保持指令が2006年3月に導入された。全加盟国の通信事業者に通話、電子メール、テキストメッセージなどの通信記録を6~24カ月間保存することを義務づけ、必要に応じて捜査当局にデータを開示するというもので、ドイツは同指令に基づいて08年1月、「通信データ保持法」を施行。電話会社とインターネットプロバイダーに対し通信当事者の電話番号やメールアドレス、IPアドレスを6カ月間、記録することを義務づけるとともに、警察、検察、情報機関などの捜査担当者に情報を照会することを認めた。通話やメールの内容は保存義務の対象から外されたものの、市民団体などは人権が侵害されるとして提訴した。

連邦憲法裁判所は10年の判決で、同法は記録流出を防ぐ措置が十分でなく、当局による利用の制限も緩いと指摘。同法は憲法で保障された通信の秘密の侵害に当たると認定し、政府にルール見直しを求めると同時に、通信事業者が保管する記録の消去を命じた。

一方、欧州司法裁判所(ECJ)は昨年4月、EUデータ保護指令は基本的人権を侵害しているとして、同指令を無効とする判決を下した。判決理由で裁判官は、データ保持指令が「個人生活と個人情報に関する基本権を著しく深刻な方法で侵害している」と指摘。加入者あるいは登録ユーザーに知らせることなくデータを保存し利用することは、当該人物に個人生活が常に監視されているという感覚を抱かせる可能性があるとした。

独政府は独連邦憲法裁と欧州司法裁の判決を踏まえて今回の法案を作成。通信事業者に保存を義務づける通信記録を電話番号、IPアドレス、通信日時・期間、移動通信利用時の通話者の位置情報に制限。電子メールは保存義務の対象外とした。また、保存期間についても旧法の6カ月から10週間へと短縮し、移動通信の位置情報については4週間に制限した。さらに、捜査当局がこれらのデータにアクセスできるのはテロや殺人など重大な犯罪の捜査に制限するうえ、裁判所の許可を得ることを条件としている。

ハイコ・マース連邦法相は「自由とセキュリティのバランスを取った」と法案の意義を強調した。

だが、プライバシー保護が不十分だとの批判はなおも強い。アンドレア・フォスホフ連邦データ保護委員はその一例として、通信サービス利用者を無差別に記録保存の対象としていることを指摘。欧州司法裁の判決に抵触するとして、データ保存の対象となる人物を犯罪容疑者に制限することを要求した。