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2016/7/6

総合 - ドイツ経済ニュース

美的集団の対クーカTOB、目標達成ほぼ確実に

この記事の要約

産業ロボット大手の独クーカに対する中国家電大手・美的集団の株式公開買い付け(TOB)は成功がほぼ確実となった。クーカがTOB支持を正式に表明したうえ、筆頭株主である機械大手の独フォイトと、美的集団に次ぐ第3位株主である実 […]

産業ロボット大手の独クーカに対する中国家電大手・美的集団の株式公開買い付け(TOB)は成功がほぼ確実となった。クーカがTOB支持を正式に表明したうえ、筆頭株主である機械大手の独フォイトと、美的集団に次ぐ第3位株主である実業者フリードヘルム・ロー氏がともにTOBを受け入れたためだ。ドイツや欧州連合(EU)の政界内には最先端技術流出などへの懸念があるものの、今回のTOBを現行法に基づいて阻止することはできない。このため、将来に同様の事態が起きた時のことを見据えて、法整備を進めるべきだとの声が出ている。

クーカは6月28日、美的集団のTOB計画を支持すると発表し、株主に受け入れを促した。支持表明に先立ちクーカは美的集団と協議を実施。クーカと取引先の知財権を侵害しないことなどを美的集団に確約させた。

美的集団は同TOB方針を5月18日に表明し、今月16日に正式発表した。クーカの1株につき現金115ユーロを支払う考え。これは美的集団がクーカへの出資比率を10.2%に引き上げたことを公表した日の前日(2月3日)終値を59.6%上回る水準で、買収方針表明前日(5月17日)の終値に比べても36.2%高い。出資比率を30%超に引き上げることを目指している。買い付け期間は6月16日~7月15日の1カ月。

クーカは同提案を評価するために銀行4行に客観的な意見を要請。4行ともTOB価格を適正と判断した。

クーカはドイツの産学官が一体となって推し進める「インダストリー4.0」の中核的な企業の1社と目されていることから、美的集団に買収されると最先端技術が流出するとの懸念が持たれている。また、インダストリー4.0では異なる企業がネットワークでつながり情報が共有されることから、これらのデータに美的集団がアクセスすることも懸念されている。

両社はこれを踏まえ、今回締結した協定に知財権保護に関する取り決めを盛り込んだ。具体的にはクーカのノウハウと顧客およびサプライヤーの秘密情報を保存するデータバンクついて◇美的集団が他の場所に移転する◇美的集団をはじめとする第3者がアクセスする――ことが禁じられた。

美的集団はこのほか、クーカに対し◇取締役会と監査役会の独立性を保証する◇事業拠点と雇用を維持する◇経営戦略を支持・支援する◇会社法上の再編を行わない◇支配契約を結ばず上場廃止も行わない――なども確約した。協定は2023年まで有効。

クーカは売上高を2020年までに15年の30億ユーロから45億ユーロに拡大する計画を打ち出している。中国は同目標実現のカギを握る市場で、同国売上高を4億2,500万ユーロから10億ユーロへと引き上げる考えだ。ロイター社長は「わが社の戦略は美的集団と協力することでより実現しやすくなる」と述べ、株主に理解を求めた。

同社長はまた、美的集団はクーカを買収せず株式の取得比率を45~50%にとどめる考えであることを明らかにした。TOBで過半数株を確保した場合は売却する方針で、クーカはすでに売却先の模索を始めている。

クーカ株48.6%を確保

筆頭株主のフォイトは3日、クーカに対する美的集団のTOBに応じ保有するクーカ株25.1%を売却すると発表した。独複合企業ローグループのオーナー兼会長であるフリードヘルム・ロー氏も同保有株10%を美的集団に売却したことを4日、『ハンデルスブラット(HB)』紙に明らかにしており、美的集団は同TOBで出資比率を30%超に引き上げるとした目標を15日の期限を待たずに達成したことになる。TOB前に13.5%を保持していたことから、すでに48.6%を確保した計算だ。美的集団のTOB価格は極めて高いことから、他の株主の大半もTOBを受け入れるとみられている。

フォイトは自社製品がメカニック中心でIT系に弱いことから2014年12月、インダストリー4.0分野で高い技術を持つクーカに戦略出資し競争力を高める考えだった。だが、美的集団に次ぐ第2位株主としてクーカに今後も出資を続けることは戦略的に意味がないと判断。TOBに応じることにした。

売却益は約12億ユーロで、クーカ株を取得した際の価格の2倍以上に上る。今後の事業拡大や他社買収に充てる考えだ。

ロー氏は約4億6,000万ユーロでクーカ株を売却した。同氏は先ごろHB紙のインタビューで、監査役会に美的集団が過半数の役員を送り込むようになると、影響力をほとんど行使できなくなると述べ、TOBに応じる意向を示唆していた。

「立法措置で技術流出に歯止めを」=欧州委員

ドイツの貿易法にはEU域外の企業が独企業の資本25%超を取得することを禁止・制限できるとの規定がある。ただ、適用対象となるのは安全保障の関する企業に限られるため、産業機械メーカーのクーカを対象とすることは法律の拡大解釈となり、政府は同規定に基づく審査権を発動できないとしている。

経済の近代化に向けて中国企業による欧米の最先端企業買収の動きが最近にわかに活発化していることから、立法措置を通して何らかの制限を加えないと合法的な技術流失は今後も続く恐れがある。欧州委員会のギュンター・エッティンガー委員(デジタル経済・社会担当)はそうした事態を避けるために、EUの経済戦略上重要な産業分野の企業買収を域外企業が計画する場合、EUないし加盟各国レベルで審査できるようにすることを提言した。独連邦議会(下院)外交委員会のノルベルト・レットゲン委員長も現行法の間隙を国ないしEUレベルでふさぐことは緊急性の高い課題だとしている。

一方、美的集団の今回のTOBに対しては、米国への直接投資(FDI)が国家安全保障に脅威とならないかを調べる対米外国投資委員会(CFIUS)が待ったをかける可能性を指摘する声もある。CFIUSは安全保障面での米国の技術的な優位性に影響する外資による買収を審査対象としているためだ。事実、電機大手の蘭フィリップスはCFIUSの懸念表明を受けて1月、照明子会社ルミレッズを中国系企業に売却する計画を断念している。