インド鉄鋼大手タタ・スチールは8日、英事業の売却交渉を凍結し、独ティッセンクルップをはじめとする同業大手との提携を目指す方針を明らかにした。6月の国民投票で英国の欧州連合(EU)離脱が決定したことで英事業の先行き不透明感が増し、買収意欲を示していた複数の企業が交渉から撤退したため、同部門の売却を断念。今後は好調なオランダ部門を柱とする大陸欧州の事業と合わせて同業との提携を模索し、欧州事業全体の存続を図る。
タタは声明で「EU離脱に伴う不確実性や、年金基金の扱いをめぐる英政府との協議を踏まえて英事業の売却計画を見直した結果、ティッセンクルップを含む同業大手との提携交渉に入った」と説明している。ただし、特殊鋼など一部の事業については別途、売却の可能性を探る方針を示しており、英鉄鋼商社リバティ・ハウス・グループが複数事業の取得に向けて交渉を行っているもようだ。
鉄鋼製品の世界的な供給過剰や安価な中国製品の大量流入を背景に、タタは3月末、赤字経営が続く英国事業の売却方針を決定。売却対象にはウェールズ南東部にある英最大の製鉄所ポート・タルボット工場などが含まれ、リバティやインドのJSWスチールなど7社が関心を示していた。関係者によると、EU離脱の決定を受け、英国で事業を継続するうえでの先行き懸念が高まったとして、売却先候補のうち少なくとも4社が交渉から撤退したとされる。
タタは当初、英事業の売却後、大陸欧州の事業をティッセンクルップの欧州鉄鋼事業と統合する方向で検討を進めていた。しかし、EU離脱を受けた方針転換で、1日当たり100万ポンドの損失を出しているとされる英事業も統合の対象に含まれることになり、ティッセンクルップとの交渉の先行きは不透明だ。