被用者を外部の企業などに派遣する企業は派遣免許を取得していなければならない。これは労働者派遣法(AUEG)1条1項第1文に記されたルールである。同9条1項には、派遣元企業が派遣免許を持たない場合、派遣元企業と派遣先企業の契約は無効となると明記されている。そうしたケースでは同10条1項第1文の規定により、派遣社員と派遣先企業との間に雇用関係が発生することになる。
このルールに絡む係争で最高裁の連邦労働裁判所(BAG)が12日の判決(訴訟番号:9 AZR 352/15)で判断を示したので、ここで取り上げてみる。
裁判は人材サービス会社から自動車大手ダイムラーに2004年から13年末まで派遣されていた製図技師がダイムラーを相手取って起こしたもの。同人材サービス会社はダイムラーと請負契約(Werkvertrag)を結んで原告技師を派遣していた。
請負契約は服務契約(Dienstvertrag)と対比される民法上の概念である。両者の違いが分からないと、この裁判の意味を理解できないため、ここで簡単に説明しておく。
両者は民法典(BGB)で次のように規定されている。
611条1項
服務契約により、服務に同意した者は約束した服務の実行を義務づけられ、契約の相手方は約束した報酬の支払いを義務づけられる
631条1項
請負契約により、請負人は約束した仕事の完成を義務づけられ、注文人は合意した報酬の支払いを義務づけられる
服務契約では仕事の完成に向けて努力することが義務づけられるものの、完成そのものは義務づけられず、報酬も契約当事者の交渉で取り決めるわけではない。雇用契約はその典型である。一方、請負契約では仕事の完成が義務づけられ、報酬も両者の交渉で自由に取り決めることができる。企業や自営業者間の商取引はこれに当たる。
労働者派遣はもともと服務契約ベースで行われていた。だが、規制強化で派遣社員の人件費が大きく上昇したことから、これを回避するために請負契約ベースで人材派遣を行うケースが増加したという事情がある。
請負契約であれば、注文人(派遣先企業)は派遣元企業と合意した報酬を派遣社員に支払へば良いため、賃金に関する規制を回避できる。これは派遣社員からすれば待遇悪化を意味することから、大きな社会問題となっており、政府は法改正で歯止めをかける考えだ。
原告は、派遣元企業とダイムラーが結んだ契約は「見かけ上は請負契約(Scheinwerkvertrag)」だが、実体は「隠れ被用者派遣(verdeckte Arbeitnehmerueberlassung)」であり不当だと批判。ダイムラーに対し被用者として採用することを要求し提訴した。
原告は1審と2審で敗訴。最終審のBAGでも判決は覆らなかった。判決理由でBAGの裁判官は、派遣元企業がAUEG1条1項第1文に記された派遣免許を保持していることを指摘。そうである以上、少なくとも現行法下では、AUEG9条1項同10条1項第1文の規定に基づいて派遣先のダイムラーと原告の間に雇用関係が発生することはないとの判断を示した。