ソフト大手の独SAPが社員の業績達成度に応じて年棒を決定する人事評価制度を廃止する。社員のやる気を高めるというプラス効果よりも不満を強めるマイナス効果の方が大きいことが分かったためだ。各社員の課題が目まぐるしく変化する現状にも適さないことから、従業員の「評価」に焦点を当てたこれまでの制度を「支援」重視へと改める。
同社では管理職が年初に部下の一人ひとりと面接して各人の年間目標を設定。夏に中間面接を行い、年末に5段階で達成度の評価を下す。この評価が次年度の給与に反映される。
SAPの独事業会社のヴォルフガング・ファスナハト人事部長によると、従業員は厳しい評価を受ける準備があるという姿勢を示すものの、低評価を実際に伝えられると「シャッターを閉じて何も受け入れなくなる」という。
評価システムに応じて社員の業績を評価する手法は米ゼネラル・エレクトリック(GE)が1980年代に導入し、世界に広がった。ドイツでも6割の企業が採用している。だが、最近はこうした手法の限界やマイナス面が目立つようになり、GEは同制度の廃止を決定した。
コンサルティング大手プライス・ウォーターハウス・クーパース(PWC)がオランダ、英国、オーストラリアで実施した企業アンケート調査では、社員の業績評価を報酬に反映させる手法は「モチベーションの向上につながる」との回答が45%に上ったものの、「チームワークに悪影響をもたらす」も同約33%と多かった。
SAPでは各社員の業務上の課題が変化するスピードが加速しており、年初に目標を立てて年末に評価を下すこれまでの方式はダイナミックな仕事の現状に見合っていないという事情もある。このため来年からは、管理職が部下と小まめに話し合い、フィードバックを行う制度を導入する。
PWCはSAPが導入する新制度について、各人の業績に連動した給与部分が少ない企業に適したもので、連動給部分の大きな企業には適さないと指摘している。