工業ガス大手の独リンデ(ミュンヘン)は7日の監査役会で、米同業プラクスエアとの合併交渉を再開することを決定した。両社は合併交渉を9月に打ち切ったものの、プラクスエアが交渉再開を打診したため、リンデは受け入れの是非を検討していた。対等合併を前提に協議を進めていく。今回の決定に絡んでヴォルフガング・ビューヒェレ社長は辞任し、アルド・ベローニ元取締役が8日付で新社長に就任した。
工業ガス業界では価格競争が激しく、最大手の仏エア・リキッドは今春、業界5位(当時)の米エアガスを買収し市場シェアを約25%に拡大。トップメーカーとしての地位を強化した。
リンデとプラクスエアはこれを受けて合併交渉を行ったものの、合併で成立する新会社の本社・開発拠点の所在地や役員人事をめぐり意見がまとまらず、破談となった。メディア報道によると、プラクスエアは新会社の統括権限を米コネチカット州ダンベリーにある自社の本社に一元化する考えを提示。ミュンヘンにあるリンデ本社の権限を大幅に縮小するほか、リンデの独拠点の統廃合を要求したため、リンデ監査役会の労働側役員が反発し、交渉が打ち切られた。
プラクスエアはこうした事情を踏まえたうえで合併交渉再開を打診しており、提案はリンデ側に譲歩した内容となっているもようだ。ドイツの雇用と拠点は保障されるとみられている。
前回の合併交渉では対等合併を目指したものの、リンデは時価総額でプラクスエアを下回っているため、プラクスエア主導の合併となる可能性もあった。今回はプラクスエア側が対等合併を条件にすることを自ら確約しており、譲歩の姿勢がみてとれる。
リンデのビューヒェレ社長(当時)は9月の交渉決裂を受けて、来年4月で切れる任期を延長しない考えを表明した。経営陣内に亀裂が生じたためだ。
今回、任期を全うせずに辞任した背景には、プラクスエアとの再交渉がまとまるまでに多くの時間が必要という事情がある。交渉途中で任期が切れることは好ましくないことから、交渉再開が決まった時点でバトンをベローニ氏へと引き渡した。
ベローニ氏は66歳のイタリア人で、リンデには計34年間勤務した。2000年から14年にかけて取締役を務めた。リンデは同氏を「我々の業界では規模と競争力が長期の成功にとって決定的に重要であることを他の誰よりも理解している」(ヴォルフガング・ライツレ監査役会長)と評価し、新社長に任命した。