「疑わしい」では解雇できず

被用者が即時解雇に値する不当な行為を行った可能性があっても、その事実が確実でない限り、解雇することはできない。ハム州労働裁判所が2016年8月の決定(訴訟番号:7 TaBV 45/16)でそんな判断を示したので、ここで取り上げてみる。

裁判は老人ホームを運営する慈善団体が職員の代表機関である事業所委員会(Betriebsrat)のメンバーを相手取って起こしたもの。同団体では2014年10月17日(金)17時から20日(月)7時の間に、職員Qの連絡ボックスに何者かがお悔やみ状を入れる事件が起きた。お悔やみ状には「(次は)お前だ」と殺害予告を示唆する言葉が書かれていた。翌年1月にもお悔やみ状が入れられたことから、Qは2月16日付で自主退職した。

Qは警察に告訴。警察の依頼で専門家が筆跡鑑定を行ったところ、お悔やみ状を書いたのは事業所委員会のメンバーLである「可能性が高い」との結果が出た。

原告の慈善団体はこれを受け、Lの即時解雇を決定。事業所委の同意を取り付けようとしたところ拒否されたため、解雇の承認を求める訴状をボーフム労働裁判所に提出した。

同労裁はこの請求を棄却。2審のボーフム州労働裁判所も同様の判断を示した。決定理由で同州労裁の裁判官は、解雇が可能なのは雇用関係の継続に必要な労使間の信頼関係が失われた場合に限られると指摘。お悔やみ状を書いたのがLであることが「確実に証明」されたのであれば解雇は妥当だが、「可能性が高い」だけでは解雇できないと言い渡した。抗告は認めなかった。

■■ポイント

事業所委員会のメンバーを解雇することは、解雇保護法(KSchG)15条で原則的に禁じられている。事業所委員は職務上、経営者と対立して報復を受けやすい立場にあることから、特別に保護されているのである。解雇が可能なのは解雇がやむを得ない重大な理由がある場合、つまり即時解雇が可能な場合に限られる(解雇予告期間を設定した通常解雇は出来ない)。

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