カーエアコンでの利用が欧州連合(EU)で禁止されている冷媒「R134a」の搭載車をリコール(無料の回収・修理)することを、ドイツ連邦陸運局(KBA)が高級車大手のダイムラーに要求している。リコールが行われないとドイツ政府はEUから制裁金を科される恐れがあることが理由とみられる。ダイムラーは要求に異議を申し立てている。『フランクフルター・ルントシャウ』紙の報道で明らかになった。
EUでは温暖化防止策の一環として2013年1月から、従来カーエアコン用冷媒として使われてきたR134aなどの代替フロンに代わり、地球温暖化係数(GWP:二酸化炭素=CO2=の何倍の温室効果を有するかを示す値)150以下の冷媒を使用することが義務づけられた。この基準を満たすのは最近まで米ハネウエル・インターナショナルの「R1234yf」に限られており、各メーカーは11年以降に型式認定を受けたすべてのモデルに同新冷媒を採用しなければならなかった。
ほとんどのメーカーは同ルールを順守したものの、ダイムラーは独自に行った試験で高温のエンジンルーム内で引火性を持つことが確認されたとして、12年9月にR1234yfの採用中止を決定。すでに同冷媒の使用で型式認定を受けていたメルセデスブランドの新型「Aクラス」などで引き続き旧冷媒R134aを使用することにした。
KBAは13年5月、R134aを再採用したこれらモデルの型式認定を行った。
EUの欧州委員会はこれを受け14年1月、新冷媒R1234yfに安全性の問題はないとの見解をまとめ、独政府に規制の順守を求める正式通知書を送付した。だが、ドイツ側がEUルールに対する違反はないとして是正策を講じなかったことから、欧州委は同年9月、新たに理由付きの意見書を送付。それでもドイツが応じなかったため15年12月、欧州司法裁判所(ECJ)に提訴した。独政府は敗訴すると制裁金を科されることになる。
KBAがリコールを要求しているダイムラーのモデルはAクラス、「Bクラス」「CLAクラス」「Sクラス」「SLクラス」で、計13万4,000台。R134aをR1234yfと交換するよう要求している。
ダイムラーは15年10月、CO2を冷媒に用いたカーエアコンを2017年からメルセデス車に搭載する計画を明らかにした。同冷媒はGWPが100であるため、R1234yfとともに基準を満たしており、EU法上の問題はない。ただ、R1234yf冷媒エアコンに比べてコストが高いため、投入対象を差し当たり上級モデルのSクラスと「Eクラス」に限定している。それ以外のモデルでは当面、CO2冷媒よりもコストが低いR1234yfを使用。エアコンに引火防止機能を付け安全性を確保している。