外資による買収のハードル引き上げ、中国企業を念頭に政政令改正

ドイツ政府は12日の閣議で、貿易法(AWG)の実施に必要な細則を定めた貿易政令(AWV)の改正案を了承した。外資が計画する国内企業買収に対する経済省の審査を強化することが柱。政府は明言していないものの、中国企業によるドイツ企業の“買い漁り”に歯止めをかけることが狙いだ。数週間以内に施行される。

中国企業はここ数年、欧米最先端企業の買収を活発に展開している。同国政府が経済近代化に向けて外資買収を奨励・支援しているためで、産業ロボット大手の独クーカは中国家電大手の美的集団に買収された。クーカはドイツの産学官が一体となって推し進める「インダストリー4.0」の中核的な企業の1社であるためで、技術流出の懸念は大きい。その他のハイテク企業が中国資本の買収標的となっていることもあり、ドイツ政府は対策の一環としてAWVを改正する。

貿易法ではドイツの公共秩序・セキュリティに支障が生じる恐れがあると経済省が判断した場合、EU(欧州連合)および欧州自由貿易連合(EFTA)域外の企業がドイツ企業に25%以上、出資することを禁止できると定められている。今回のAWV改正では外資による出資を禁止できる対象を初めて具体的に規定。電力、病院、港湾など重要インフラの運営事業者やこれらのインフラに用いるソフトウエアの開発会社への出資を外資が計画する場合は、買収可否の審査対象になることが明確化された。

改正案にはまた、EU・EFTA域外の企業が域内に子会社を設立して貿易法の審査規制を回避することを防ぐために、審査期間を従来の2カ月から4カ月に拡大する条項も盛り込まれた。審査期間を長期化することで、経済省は買収計画の詳細な情報を収集し、買収主体の背後に域外の政府や政府系投資会社が隠れていないかを調べやすくなる。背景には、中国企業がEUのハイテク会社を買収する場合、自国政府の資金支援を受けるとともに、EU域内に子会社を設立することが多いという事情がある。

政府はEUレベルでも外資の域内企業買収に歯止めをかけたい考えで、2月にはフランス、イタリア政府と共同で欧州委員会に書簡を送り、第3国からの投資規制の見直しを求めた。3カ国は域外の投資家が自国の「戦略的目標」のために、欧州企業が開発した高度な技術の買い占めを加速させる一方、EU側の投資家は第3国でしばしば不公正な障壁に直面しており、「相互主義」が確保されていないと指摘。EUからの技術流出を防ぐ有効な手段がない現状について強い懸念を表明した。

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