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2017/7/26

総合 - ドイツ経済ニュース

BASFなどがトルコのテロ支援者リストに

この記事の要約

昨年7月のトルコのクーデター未遂事件をきっかけとする同国とドイツの関係悪化に拍車がかかってきた。トルコで活動するドイツ人ジャーナリストや人権活動家がテロ支援容疑の名目で多数、逮捕されているためだ。独大手企業BASFやダイ […]

昨年7月のトルコのクーデター未遂事件をきっかけとする同国とドイツの関係悪化に拍車がかかってきた。トルコで活動するドイツ人ジャーナリストや人権活動家がテロ支援容疑の名目で多数、逮捕されているためだ。独大手企業BASFやダイムラーがトルコのテロ支援容疑者リストに載せられている事実が明らかになったこともあり、独ガブリエル外相は20日、「法的に問題なく行動している企業がテロ支援者として扱われることを想定しなければならないのであれば、政府はトルコでのドイツ企業の投資にもはや賛成できない」と強い調子で語った。

トルコでは昨年7月15日、軍のクーデター未遂事件が起きた。同国政府は米国在住の宗教家フェトフッラー・ギュレン氏を首謀者と断定し、ギュレン派と目した人々を大量に逮捕している。

これを受けて、ギュレン派のトルコ人が多数、ドイツに亡命を申請。トルコ政府はこれら申請者の身柄引き渡しを要求しているものの、ドイツ政府は不当逮捕などトルコの人権侵害を懸念し拒否していることから、関係が悪化した。

2月には両国の二重国籍を持つ独日刊紙『ヴェルト』のデニズ・ユジャル記者がテロ支援容疑で逮捕された。現在も身柄を拘束されている。今月5日には人権保護団体アムネスティのトルコ支部が主催する現地セミナーに講師として招かれていたドイツ人ペーター・シュトイトナー氏もテロ支援容疑で逮捕された。同氏は警察などから兆発を受けた際に冷静かつ非暴力的に対応するための技術や心構えをレクチャーしたに過ぎない。

クーデター未遂事件以降にテロ支援容疑で逮捕されたドイツ人は22人で、そのうち9人は現在も釈放されていない。独外務省は容疑をこじつけと批判し、全員の即時釈放を要求しているものの、トルコ側が応じる気配はない。

メディア報道によると、トルコのエルドアン大統領は数週間前、ドイツに逃亡した将軍2人を引き渡せばユジャル記者を釈放する考えを伝えてきた。独外務省はこうした事情を踏まえ、トルコは亡命申請した自国人の身柄を確保するためにドイツ人を“人質”として逮捕していると分析しているという。

トルコはテロ支援容疑者リストを各国に送り、捜査協力を求めている。独週刊紙『ツァイト』の19日付報道によると、独連邦警察庁(BKA)に数週間前に届けられたリストにはトルコレストランなどとともにBASFとダイムラーの名が記載されていた。トルコのシムシェキ副首相は20日、ツイッターの投稿で報道内容を否認したものの、BASFは同社がリストに掲載されている事実をBKAから伝えられたことを明らかにしている。

BKAはトルコ側が示す容疑が具体的でないため協力しない意向を20日、『フランクフルター・アルゲマイネ』紙に明らかにした。

トルコ経済は独に依存

外交関係の悪化を受けて、両国の貿易は低迷しており、ドイツの第1四半期の対土輸出高は前年同期比で8%減少。トルコからの輸入高も横ばいにとどまった。ギュレン派と目されるトルコ企業と取引をしただけでテロ支援容疑をかけられるようであれば、両国間の経済関係はさらに冷え込む懸念がある。ガブリエル外相は国がリスクの担い手となるヘルメス貿易保険の対トルコ輸出への適用や投融資、経済援助を見直す考えを明らかにした。外務省は20日、渡航情報に「ドイツ人が不当逮捕されるケースが何件か起きている」といった記述を追加し渡航者に注意を促した。

ドイツ側のこうした強い姿勢は効果を出している。トルコのユルドゥルム首相は両国関係を損なわないよう配慮する必要性を強調。シムシェキ副首相は「ドイツ企業の従業員、株主、消費者、サプライヤーは何も心配する必要がない」と明言した。ゼイベクジ経済相も「ドイツの投資はトルコ政府、国家、法律によって100%保障される」と強調している。24日にはソイル内相が独デメジエール内相に電話し、テロ支援容疑者リストにはコミュニケーション上の誤解があったとして、同リストを撤回した。

背景にはトルコ経済がドイツに強く依存していることがある。ドイツはトルコ最大の貿易相手国で貿易高は昨年373億ユーロに達した。トルコで事業を展開する独企業は6,846社で、2位の英企業(3,221社)の2倍以上に上る。ドイツ人観光客(369万人)の数もロシア人に次いで2番目に多い。

トルコはテロの多発やクーデター未遂事件以降の強権政治が響いて外国からの直接投資や観光客が減少している。経済が悪化すると、エルドアン政権に対する国民の支持が弱まる懸念があることから、ドイツ側はこの弱みを突いた格好だ。

ドイツ政府はこれまで、トルコに対して強い姿勢を控えていた。難民問題で大きなカギを握るトルコとの関係を悪化させることは得策でないと判断したためだ。だが、トルコの政治家は自制を求めるドイツとは裏腹に、ドイツやEUに対する罵りや攻撃的な言辞を止めなかった。

ガブリエル外相は5日の記者会見で「我々は繰り返し忍耐し、控え目にし、目には目を持って報いることを避けてきた。我々は繰り返し理性が回帰し有益な関係を取り戻せるよう努力してきた。そして我々は繰り返し失望してきた。エスカレーションは常にすぐ、次の段階へと進んでいった」と発言。自制を続けるだけではトルコ側の対応改善を期待できないとの思いを吐露した。欧州委員会のヨハネス・ハーン委員(近隣政策・拡大交渉担当)は独メディアのインタビューで「ドイツの反応は理解できる」と述べ、独政府の姿勢を擁護した。

安全保障開発政策研究所(ISDP、スウェーデン)の研究員はヴェルト紙に、「エルドアンは自らをトルコの救済者として演出するために外敵を必要としている」と指摘。そうした敵としてドイツを選んだとの見方を示した。