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2019/2/6

総合 - ドイツ経済ニュース

経済力強化戦略を経済相が発表、中国の台頭やIT分野での米の優位背景に

この記事の要約

ドイツのペーター・アルトマイヤー経済相は5日、同国と欧州連合(EU)の経済競争力強化に向けた長期戦略「国家産業戦略2030」を発表した。中国の台頭やIT分野における米国の優位性を背景に欧州の地盤沈下が進むのを阻止し、経済 […]

ドイツのペーター・アルトマイヤー経済相は5日、同国と欧州連合(EU)の経済競争力強化に向けた長期戦略「国家産業戦略2030」を発表した。中国の台頭やIT分野における米国の優位性を背景に欧州の地盤沈下が進むのを阻止し、経済・技術面での主導権を獲得する狙いだ。これまでの経済政策と異なり、国が重要産業を指定したり、合併を通したグローバルプレイヤーの創出を積極的に推し進めるなど政治が市場に介入する姿勢を明確に打ち出しており、エコノミストの間からは批判が出ている。

ドイツは2000年代に実施した構造改革「アジェンダ2010」の効果で、「欧州の病人」と言われた経済が回復。欧州の他の主要国が低迷するなかで、一人勝ちの成長を続けてきた。2010年代に入ってからはモノづくり大国としてのドイツの競争力を大幅に高めるための産学プロジェクト「インダストリー4.0(I4.0)」を打ち出し、他国に先駆けて製造業のデジタル化へと舵を切った。

だが、I4.0のカギを握るIT分野では米国の競争力が圧倒的に高い。独政府の研究・技術革新諮問委員会(EFI)は昨春、人工知能(AI)の投入分野でドイツが競争力を持つのは自動運転に限られると警鐘を鳴らしたが、自動車大手フォルクスワーゲン(VW)のヘルベルト・ディース社長によると、その自動運転分野でも米企業は先行しており、同社はグーグル系の開発会社ウェイモより2年、遅れている。

先進国では製造業からサービス業への産業シフトが長期的に進んできた。だが、リーマンショックに端を発する金融経済危機を受けて、製造業が空洞化すると経済力が低下することを多くの国が認識。世界最大の経済力を持つ米国は製造業の再生に向けて動いている。

中国も国家が主導する形で経済・技術力を急速に高めている。欧州と違って個人情報保護規制が極めて緩いことから、AI分野ではすでに高い競争力を持つ。電動車やロボットなど計10分野で世界を主導する国になるという政府の長期戦略「中国製造2025」を受けて、有力企業や将来性の高い欧米企業の買収を中国資本が積極化していることもあり、ドイツ政府は危機感を募らしている。

外資による買収禁止の基準を明確化

国家産業戦略2030はこうした時代の変化を背景に作成されたもので、自国産業の「強化」と「保護」を政策の2本柱としている。具体策としては◇エネルギー価格・社会保険料負担の抑制や、競争力をそがない税制を通した産業立地条件の改善◇画期的な新技術分野で企業の合併やコンソーシアム形成を促進し、必要があれば国が直接、出資する◇ドイツ経済の屋台骨である中小企業への資金支援を通して新技術の製品化を支援するとともに、資金不足を理由とする外資への身売りを防止する◇外資によるドイツ企業買収を禁止する際の基準を明確化する――などを打ち出した。

合併やコンソーシアム形成を支援するのは世界市場で高い競争力を持つグローバルプレイヤーの創出を狙っているため。独仏西英の4社の合併で成立した欧州航空宇宙大手エアバスを手本と考えている。アルトマイヤー経済相は現在すでに、自動車産業の競争力を大きく左右する車載電池のコンソーシアム形成の支援に動いており、近く設立される見通しだ。

外資による買収の禁止基準を明確化するのは中国企業による買収を念頭に置いたもの。ドイツの貿易法・政令にはすでに、公共秩序・セキュリティに支障が生じる恐れがあると政府が判断した場合、EU(欧州連合)および欧州自由貿易連合(EFTA)域外の企業がドイツ企業に10%以上、出資することを禁止できると定められている。それにもかかわらず買収禁止の基準を明確化する方針を今回打ち出したのは、外資による買収制限の対象をこれまでよりも広げる狙いがあるためとみられる。

重要産業9分野を指定

国家産業戦略ではまた、ドイツ経済にとって特に重要な産業として原料(鉄鋼・銅・アルミニウム)、化学、機械・設備、自動車(サプライヤーを含む)、光学・医療機器、環境技術、軍需、航空宇宙、積層造形などの新しい製造技術の計9分野を指定。さらにドイツ経済の持続的な成功に欠かせない企業としてシーメンス(電機)、BASF(化学)、ティッセンクルップ(複合企業)、大手自動車メーカー、ドイツ銀行の名を明記した。

国による市場介入の強化を意味するこれらの政策に対しては、エコノミストの間から批判が出ている。ドイツ経済研究所(DIW)のトマソ・ドゥーソ教授は『フランクフルター・アルゲマイネ』紙に、競争圧力のみが企業を技術革新的かつ効率的にすると指摘。「どの技術、分野、市場が将来重要になるかを国家が市場よりもよく理解しているという考えは全くの誤りだ」と切り捨てた。政府経済諮問委員会(5賢人委員会)のラース・フェルト教授(フライブルク大学)も「全く機能しなかったフランスの産業政策をコピーしたに過ぎない」と批判した。

これに対しアルトマイヤー経済相は「経済政策は(企業などの活動の)枠組み条件の創出にとどめるべきだという考え方、つまり積極的な産業政策を例外なく拒否する考え方に私は与しない」と反論している。

同相は今回打ち出した戦略を今後、論議し、夏季休暇前に閣議了承を取り付ける考えだ。

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