欧州経済の中心地ドイツに特化した
最新の経済・産業ニュース・企業情報をお届け!

2019/2/20

総合 - ドイツ経済ニュース

ブレグジットで企業は「コンパスなしの航海」

この記事の要約

独商工会議所連合会(DIHK)は欧州連合(EU)からの英国の離脱(ブレグジット)の影響に関するレポートを14日に発表し、ブレグジットがドイツ企業の大きな負担になっていることを明らかにした。英国事業が離脱決定以降、悪化して […]

独商工会議所連合会(DIHK)は欧州連合(EU)からの英国の離脱(ブレグジット)の影響に関するレポートを14日に発表し、ブレグジットがドイツ企業の大きな負担になっていることを明らかにした。英国事業が離脱決定以降、悪化しているうえ、ブレグジットがどのような形になるのかが離脱を目前に控えた現時点でも定まっていないことから対策を立てるのも難しいためだ。DIHKのフォルカー・トライヤー貿易部長は「コンパスなしで航海しなければならない」状況に苦言を呈した。

DIHKは国外事業を展開するドイツ企業2,100社強を対象に今月、アンケート調査を実施した。そのうち英国がらみの事業を行うのは約1,500社で、内訳(複数回答可)は「製品・サービスを英国に輸出する」が63%、「製品・サービスを英国から輸入する」が30%、「現地法人・事務所を英国に持つ」が17%、「英国籍保有者を雇用している」が13%、「ドイツ国籍保有者を英国の拠点で雇用している」が3%だった。

1,500社のうち英国事業の現状が「悪い」と回答したのは38%で、前年調査の25%から13ポイント増加した。「良い」は21%にとどまっており、「良い」から「悪い」を引いた数値は前年の4ポイントからマイナス17ポイントへと大幅に悪化した。

ユーロ圏の事業の現状については「良い」が「悪い」を56%、英国とユーロ圏を除くEU加盟国とスイス、ノルウェーの事業の現状についても「良い」が「悪い」を44%、上回っており、英国事業の不振は際立っている。

英国事業の現状が悪化している背景には、ブレグジットを決めた2016年の国民投票後、英ポンド安が進み同国向け輸出の減少が続いているほか、先行きを予想しにくいことから同国の経済成長が鈍化していることがある。

3月29日に予定するブレグジットが「合意なき離脱」となる可能性が高まっていることもあり、今後1年間の英国事業の見通しが「悪い」とする回答は前年の36%から71%へと倍増。「良い」は3%にとどまったことから、「良い」から「悪い」を引いた数値は前年のマイナス24ポイントからマイナス68ポイントへと膨らんだ。英国から他の市場への事業移管を計画する企業は12.5%に上る。

「ブレグジットが事業にもたらす影響をすでに分析しましたか」とドイツ企業全体(英国事業を展開していない企業を含む)に尋ねた質問では、「はい」との回答が88%と高かった。DIHKはこれについて、英国事業を展開していない企業でもサプライヤーチェーンや顧客関係を通してブレグジットの影響を受けると指摘。例えば独仏のサプライヤー計2社から部品の供給を受ける独機械メーカーであっても、仏サプライヤーが英国製の材料を自社製部品に投入していると、同機械メーカーの製品はブレグジット後、EUが通商協定を結ぶ日本や韓国で特恵原産地の認定を受けられなくなる恐れがあると説明している。

「離脱の影響を予測できない」は過半数に

ブレグジット対策に関する質問では「準備を整えた」との回答が25%にとどまった。一方、「踏み込んだ分析を行ったにもかかわらずブレグジットの影響をいまだに予測できないでいる」は前年の43%から50%強へと増加した。ブレグジットが「合意付きの離脱」になるのか、「合意なしの離脱」になるのかが現在に至るまで定まっていないことが背景にある。

こうした事情を受けて、企業がすでに取った対策では「ブレグジットの影響を見極めるために顧客・サプライヤーと協議」が68%と多かったのに対し、合意なき離脱の場合に必要となる「英国での在庫積み増し」は28%と比較的少なかった。合意なき離脱が確定していない現時点では在庫積み増しなどコストがかさむ措置を見合わせたいという思惑が強いもようだ(グラフ1を参照)。

ブレグジット後に発生するリスクとしては「通関手続き」との回答がダントツで多く、78%に達した。DIHKによると、合意なき離脱となった場合、対英貿易の税関書類提出件数は最大1,000万件に達し、2億ユーロのコストが発生する。

ブレグジット後のリスクとして2番目に回答が多かったのは「関税障壁」で57%に上った。

3位は「法的な不透明性」(45%)だった。DIHKはこれに関する例として、英国法に基づく非公開有限責任会社(private company limited by shares=Ltd.)の企業形態を採用するドイツ企業が8,000~1万社に上ることを指摘。英国がEUから離脱すると、これらの企業はドイツで合名会社(OHG)ないし「民法上の組合(GbR)」として扱われるようになり、出資者は無限責任を負うことになるという事情を強調した。(グラフ2を参照)