製薬・化学大手の独メルク(ダルムシュタット)は2月27日、電子材料の有力メーカーである米バースームに同日付で買収提案を行ったと発表した。機能性材料部門の業績を長年、けん引してきた液晶事業が低迷していることから、需要の拡大が見込まれる半導体材料に強いバースームを傘下に収めることで、電子材料分野で長期の成長を確保できるようにする狙い。バースームは米特殊化学大手インテグリスと合併合意しており、メルクは横やりを入れた格好だ。
バースームを株式公開買い付け(TOB)で買収する意向で、1株当たり現金48ドルを提示した。これはバースームとインテグリスの合併計画発表日の前日(1月25日)終値を51.7%上回るほか、メルクの買収提案日の前日(米時間で25日、独時間で26日)終値を15.9%上回る水準。全株式を取得した場合の総額は59億ドルで、メルクにとっては2015年の米シグマ・アルドリッチ買収(170億ドル)以降で最大となる。
バースームとインテグリスの合併は株式交換方式を予定している。これに対しメルクは提示額がインテグリスを大幅に上回るうえ、現金での買い取りを提案していることから、株主にとってはメルクTOBに応じる方が得策だ。
バースームはメルクの発表後の声明で、「インテグリスとの対等合併という提案の戦略・財務的な意義を依然として確信している」との見解を提示。株主に対する責任を踏まえメルクの提案内容を検討するとしたものの、1日になってメルクの提案の受け入れを正式に拒否しており、メルクは敵対的なTOBを行うことになりそうだ。
メルクは液晶の最有力企業として長年、君臨してきたが、近年は中国勢の追い上げを受けて電子材料事業が悪化している。このため昨年7月には、液晶事業の穴を埋めるために、有機EL材料、半導体製造工程で使用されるフォトレジスト、半導体材料、コーティング材事業を強化する方針を打ち出した。
モノのインターネット(IoT)の進展や、自動車の電動・IoT化を背景に半導体の需要は長期拡大が予想される。半導体材料市場も成長が見込まれることから、メルクはバースームを是が非でも買収したい考えだ。シュテファン・オシュマン社長は「(バースームの)株主に対するわが社の魅力的な現金買い取り提案はこの取引を成功裏に完了させたいという強い決意を示すものだ」と述べ、買収の成功に自信を示した。当局の承認を経て買収手続きが下半期に完了すると見込んでいる。