残業時間の不正申告、即時解雇は妥当か?

残業時間を不正申告した被用者を即時解雇することは法的に妥当なのだろうか。この問題を巡る係争で最高裁の連邦労働裁判所(BAG)が昨年12月に判決(訴訟番号:2 AZR 370/18)を下したので、ここで取り上げてみる。

裁判はマンハイム国民劇場で監視などの特別サービス業務を統括していた主任が雇用主であるマンハイム市を相手取って起こしたもの。原告は2008年9月から同市の職員として勤務し、2010年3月に国民劇場の主任となった。

原告は主任に就任する前、高温やほこりにさらされる勤務を行う職員に支給される「困難手当」を受給していた。国民劇場の主任はそうした業務を行わないことから、同手当は本来、支給されないはずだったが、実際には就任後も誤って支給されていた。

この問題に気付いた人事担当者は12年1月、今後は同手当を支給できないことを原告に説明するとともに、減収を相殺する手段として給与等級が上がるまでの期間、暫定的に月7時間の残業手当を申請することを提案した。

原告はこれを受けて、勤務実態がないにもかかわらず毎月7時間の残業を行ったとして、手当を申請・受給していた。

被告マンハイム市は2015/16年度の会計監査で、原告が毎月、一定時間の残業を行ったとして手当を申請している事実を把握。17年3月3日に本人に問い合わせたところ、勤務実態がないことを認めたため、16日付の文書で即時解雇を言い渡した。

原告はこれを不服として提訴。残業手当の申請は人事担当者との合意の上で行ったもので、不当でないと主張した。

これに対し被告は、人事担当者に残業手当に関する権限がないことは管理職であれば理解できるはずだと反論。原告は残業手当を故意に水増し申請したとして、即時解雇はやむを得ない措置だと訴えた。

原告は一審と二審で勝訴したものの、最終審のBAGで逆転敗訴した。判決理由でBAGの裁判官は、人事担当者に残業手当に関する権限がないことは管理職であれば理解できるはずだとする被告の主張を認めたうえで、原告は不正受給の事実をいつでも被告に打ち明けるチャンスがあったにもかかわらず、長年に渡って不正受給を続けたと断定。雇用関係に必要な信頼感が修復不能なまでに損なわれたとして、「重大な理由」がある場合は即時解雇ができるとした民法典(BGB)626条の規定に基づき、原告の即時解雇は妥当だとの判断を下した。

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