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2019/4/17

総合 - ドイツ経済ニュース

電動車支援の拡大を自工会が政府に要求へ

この記事の要約

ドイツの自動車業界は電動車の普及を加速させるために政府支援を拡大するよう要求する方針だ。電気自動車(EV)などをメーカーが市場投入するだけでは十分な規模の需要を掘り起こせず、同国の二酸化炭素(CO2)排出削減目標を達成す […]

ドイツの自動車業界は電動車の普及を加速させるために政府支援を拡大するよう要求する方針だ。電気自動車(EV)などをメーカーが市場投入するだけでは十分な規模の需要を掘り起こせず、同国の二酸化炭素(CO2)排出削減目標を達成することも欧州連合(EU)の自動車排ガス規制を遵守することもできない見通しのためだ。独自動車工業会(VDA)は5月29日の理事会で要望案を決議し、政府に提出する。業界情報として経済紙『ハンデルスブラット(HB)』が15日、報じた。

ドイツは国内のCO2排出量を2030年までに1990年比で少なくとも55%削減する目標を掲げている。ただ、現状ではこれを実現するのが難しいことから、踏み込んだ措置の実施が必要となっている。特に交通はCO2排出量が唯一、増加している部門であり、40~42%削減するとの部門目標を達成するためには電動車を大幅に増やす必要がある。

EUは走行1キロメートル当たりの乗用車と小型商用車のCO2排出量を21年までに現在の平均130グラム以下から同95グラム以下に抑制する計画。30年には21年に比べ乗用車で37.5%、軽商用車で31%の引き下げることを目指している。

これらの目標を達成するために各メーカーはEVなど電動車への移行を急いでいる。独自動車メーカーの関係者はHB紙に、ドイツで交通部門のCO2を42%削減するためには「少なくとも国内で登録される電動車を最低でも700万台、おそらくはそれ以上に増やさなければならない」と明言した。最低700万台という数値は業界の共通理解になっているという。

同国の1月1日時点のEV登録台数は約8万3,000台、プラグインハイブリッド車(PHV)は同6万7,000台だった。ともに前年同日を50%以上、上回ったものの、計15万台にとどまっており、これを今後11年で約47倍の700万台に増やすのは容易でない。

これを実現するためには政府の助成拡大で複数の障害を取り除く必要があるというのが自動車業界の見方だ。具体的には◇電動車の購入・利用に伴うコスト負担の軽減◇充電インフラ網の拡充――を政策的に推し進めることを求める方向だ。

同国では電動車の普及を加速させるために、EVとPHV、燃料電池車(FCV)の購入者に助成金を支給するルールが16年7月から始まった。1台当たりの助成額はEVとFCVで4,000ユーロ、PHVで3,000ユーロ。カタログ価格で6万ユーロ以下の車両が助成対象となっている。政府はこれにより、電動車の普及台数を20年末までに100万台へと拡大する目標だった。

だが、電動車は内燃機関車に比べて価格が大幅に高いうえ、航続距離、充電時間、充電インフラの密度の面でも弱みが解消されていないことから、普及台数は政府の想定を大きく下回っている。電動車の普及に向けた政府諮問機関「国家プラットフォーム・エレクトロモビリティー(NPE)」はこの現実を踏まえ昨年9月、同目標の達成時期が22年に延びるとの見通しを明らかにした。

車の電動化は「全社会的な課題」

普及のネックとなっている価格は当面、高止まりする。HB紙によると、3万ユーロ未満の電動車を今後4年以内に独メーカーが市場投入する計画はない。そうした高額車両に手の届かない消費者は多いことから、VDAは政府に助成額の拡大を求めるとみられる。

ガソリンや軽油に比べ電力の価格が割高だという事情も普及を妨げる。1キロワット時当たりの電力価格は現在、最大で60セントに上る。これは自動車燃料に換算すると2.8ユーロと約4.7倍の水準に相当する。このため、自動車業界は政府に電力料金負担の軽減を求めていく。

政府は充電スタンド網の拡充も支援しており、16年には、国が総額3億ユーロの補助金を支給する方針を決定した。だが、独エネルギー水道産業連合会(BDEW)によると、国内の電動車用チャージポイント数は3月時点で1万7,400カ所にとどまっており、EVで国内を移動する際は電池切れで立ち往生するリスクを負うことになる。

VDAは自動車の電動化という大きな転換を「全社会的な課題」と位置づけており、その実現に向けた相応の費用負担を政府に求める意向だ。