各被用者の給与明細、事業所委に「知る権利」はあるのか?

従業員の代表機関である事業所委員会(Betriebsrat)には全被用者を対象とした税込給与額リストの閲覧権がある。これは法令、労災規定、労使協定、社内協定を遵守しているかどうかをチェックするという同委の義務行使に必要な権利の1つとして、事業所体制法(BetrVG)80条2項第2文で定められている。では、事業所委には税込給与額リストだけでなく、各被用者が特別手当をどんな名目でいくら受給しているかについても知る権利があるのだろうか。この問題を巡る係争でヘッセン州労働裁判所が昨年12月に決定(訴訟番号:16 TaBV 130/18)を下したので、ここで取り上げてみる。

裁判は公立病院の事業所委員会が同病院を相手取って起こしたもの。同委はどの被用者がどのような根拠と基準に基づいて特別手当をいくら受給しているかを知らせるよう被告に要求した。被告はこれを受けて全被用者を対象とした税込給与額リストの閲覧を認めたものの、それ以上の詳細情報については被用者のプライバシー侵害に当たるとして、データ保護規制を根拠に提供を拒否したことから、事業所はBetrVG80条の監視義務と、BetrVG87条1項10で定められた賃金・給与のあり方の共同決定権(Mitbestimmungsrecht)を不当に妨害されたとして提訴した。

原告は一審と二審のヘッセン州労裁でともに勝訴した。決定理由で同州労裁の裁判官は、事業所委がBetrVG80条の監視義務を遂行できるようにするために雇用主は包括的な情報を速やかに知らせなければならないとしたBetrVG80条2項第1文の規定、およびそうした情報を文書の形で請求することを事業所委に認めたBetrVG80条2項第2文前半の規定を指摘。被告は各被用者の給与の詳細情報を原告に文書で提示しなければならないと言い渡した。

被用者のプライバシー保護に関しても、被用者データの処理に被用者の利害代表機関が関与することを保障した連邦データ保護法(BDSG)26条6項の規定を根拠に、原告が各被用者の詳細な給与情報を得ることに問題はないとの判断を示した。

最高裁の連邦労働裁判所(BAG)への上告は認めなかった。

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