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2019/6/5

総合 - ドイツ経済ニュース

社民ナーレス党首が辞任、メルケル政権に黄信号

この記事の要約

独社会民主党(SPD)のアンドレア・ナーレス党首は2日、党の全役職から退く意向を表明した。職務の継続に必要な支持を得られないと判断したためで、党首と連邦議会(下院)院内総務を辞任。連邦議会議員職も返上する。同党首は党内の […]

独社会民主党(SPD)のアンドレア・ナーレス党首は2日、党の全役職から退く意向を表明した。職務の継続に必要な支持を得られないと判断したためで、党首と連邦議会(下院)院内総務を辞任。連邦議会議員職も返上する。同党首は党内の強い反対を押し切って最大与党キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)との現政権(第4次メルケル政権)を成立させた立役者であり、辞任はメルケル政権の瓦解につながる可能性もある。

ナーレス党首は院内総務選挙を当初予定の9月から6月4日に前倒しする意向を5月27日に表明していた。前日に行われた欧州議会とブレーメン州議会のダブル選挙でともに歴史的な大敗を喫したことを受けたもので、院内総務選で再選を果たし、党首・院内総務の人事論議を鎮静化させる狙いがあった。

だが、同党首に対する風当たりは強く、「職務の遂行に必要な支持がもはや存在しない」と判断。予想外の辞任へと踏み切った。

SPDは2017年9月の連邦議会選挙で得票率を前回の25.7%から20.5%へと大幅に落とし、戦後最低を更新したことから、当初はCDU/CSUとの連立を解消し下野する意向を表明していた。政権運営に必要不可欠な妥協を繰り返しているうちに「社民らしさ」という党の輪郭がぼやけ、支持率の低下につながったと判断したためだ。

だが、CDU/CSUと小政党の自由民主党(FDP)、緑の党の連立交渉がとん挫したことから、SPDはCDU/CSUとの政権交渉をやむなく実施した。党内左派と青年組織「青年社会主義者(JUSO)」を中心に激しい批判を受けたものの、ナーレス院内総務は、連立政権の樹立を拒否して選出されたばかりの議会を解散することは有権者の理解を得られないと強調。交渉ではCDU/CSUに「悲鳴を上げさせる」と強い意気込みを示し、SPD主導の政権協定締結を約束した。

次期党首に誰も名乗り出ず

事実、両党の政権協定にはSPDの要求が多数、盛り込まれた。同党の要求をのまなければ、政権を樹立できないという事情を踏まえCDU/CSU側が譲歩したためだ。

ナーレス氏は18年4月の党大会で、同党初の女性党首に選出された。ただ、党内の支持は弱く、厳しい道のりは当初から予想されていた。

同年3月に成立した第4次メルケル政権では、公的健康保険料の労使折半ルール復活などSPDが要求する政策がすでにある程度、実現した。だが、同党の支持率低下に歯止めはかかっていない。5月のダブル選挙では同党の牙城であるブレーメン州で戦後初めて第2党に転落。欧州議会選挙では緑の党に抜かれて独政党3位へと落ち込んだ。得票率はともに過去最低を更新した。

背景には戦後の独・欧州で中道左派の中核を担ってきた社会民主主義の存立基盤が狭まっていることがある。伝統的な支持層である労働者階級が縮小する一方で、有権者は多様化しており、被用者の権利保護・拡大を打ち出すだけではかつての勢力を保てなくなっているのだ。

欧州議会選でSPDが凋落し、緑の党が躍進したのはそうした変化を可視化するもので、SPDは党のあり方の抜本的な見直しを迫られている。

そうした現実を党は理解しているものの、具体的な方向性が見つからないというのが現状だ。45歳未満の支持率が特に低く60歳以上を主な票田としていることを踏まえると、富の再分配や被用者の権利拡大という「歴史的な使命を果たした20世紀型の政党」として消えゆく可能性もある。

ナーレス氏は3日に党首、4日に院内総務を辞任した。後継者は未定で、党首職についてはラインラント・ファルツ州のマル・ドライヤー首相など副党首3人が代行する。有力政治家は次期党首選に軒並み出馬しない意向を示しており、誰も火中の栗を拾おうとしない状況だ。この事情からもSPDの危機の深刻さがうかがわれる。

ナーレス氏の辞任を受けて、党内からは政権離脱を求める声がすでに出ている。東部州ザクセン・アンハルトのSPD支部は3日、CDU/CSUとの協働の基盤はもはや存在しないとして、連立解消を求める声明を発表した。連立の継続は党勢のさらなる縮小につながるとの危機感が背景にある。連邦議会のトーマス・オッパーマン前院内総務は、温暖化対策などをめぐる両党の対立が速やかに解消されなければ、現政権の正当性は失われると発言。政権がクリスマスまで持つかどうか分からないと言い切った。

緑の党初の首相誕生も

CDU/CSU側は神経をとがらせており、CDUのアンネッテ・クランプカレンバウアー党首は、ナーレス党首の辞任が連立政権の行動能力に支障をもたらすことはあってはならないと強調。メルケル首相(CDU前党首)も「我々は真剣かつ大きな責任意識を持って政府の活動を継続する」と述べ、SPDをけん制した。

SPDが仮に政権から離脱した場合、CDU/CSUはまず(1)FDP、緑の党との連立樹立を目指す(2)議会の過半数議席を持たない少数内閣として政権を運営する――の選択肢を迫られることになる。

ただ、(1)はFDPと緑の党が同意しないとみられ、実現の可能性は低い。FDPはメルケル首相下での政権入りを以前から拒否しているうえ、緑の党が求める環境重視政策を誤ったものと批判しているためだ。

緑の党は17年の連邦議会選挙時に比べて支持率が倍増していることから、現政権が崩壊した場合は解散・総選挙を行うよう要求している。民放RTL向けに世論調査会社フォルサが実施した最新のアンケート調査(5月27~31日)によると、同党の支持率は1週間前の18%から27%へと急拡大。CDU/CSU(同2ポイント減の26%)を抜いて1位となった。有権者アンケートで緑の党がトップとなるのは初めてだ。アンナレーナ・ベールボック共同党首は3日、公共放送ZDFに「この政府(メルケル政権)がもはや力を持っていない以上、この国について社会、つまり有権者が決定を下さなければならない」と明言した。

議会の解散というシナリオはCDU/CSUとSPDにとって好ましくない。両党とも有権者の支持率が大きく落ち込んでいるためだ。

CDU/CSUが少数内閣を樹立するという選択肢も現時点では実現の可能性が低い。メルケル首相が否定的な立場を取っているためで、少なくとも同首相が辞任することが前提となる。また、メルケル首相が辞任したとしても、次期首相候補であるCDUのクランプカレンバウアー党首の求心力が低いことを踏まえると、リスクの大きい選択肢となる。

緑の党の人気が高い現状を利用して選挙を行えば、同党とCDU/CSUが過半数議席を獲得し、安定した連立政権樹立の前提を作り出すことは十分に可能だ。ただ、同政権でCDU/CSUがジュニアパートナーへと転落し、緑の党から初めて首相が選出される可能性は排除できない。

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