「政府の政策は企業に有害」、経済団体が異例の批判

ドイツの経済界が政府に対する不満を募らせている。2000年代後半から続いた順調な経済成長の裏側で、産業立地競争力の低下を示す調査が相次いで公表されるなど、先行き懸念が強まっているためだ。メルケル政権が時代の変化に合わせて経済政策を十分に見直してこなかったという事情もあり、独産業連盟(BDI)のディーター・ケンプ会長は4日、ベルリンで開催した「2019年産業会議(TDI)」で「政府の政策が企業に害をもたらしている」と強い調子で批判。「(左右の二大政党からなる)大連立政権(メルケル政権)は信頼の多くを喪失した」として、政策の転換を促した。

ドイツでは2000年代前半、社会民主党(SPD)と緑の党からなる中道左派のシュレーダー政権が構造改革「アゲンダ2010」を実施した。手厚い失業保険などにメスを入れるとともに、企業の税・社会保険料負担を軽減することが柱。08年には法人税率がそれまでの25%から15%へと引き下げられ、企業の実効税率は39%弱から30%弱へと低下した。

こうした一連の改革の効果で「欧州の病人」と呼ばれていた経済は力強く回復した。08年のリーマンショックに端を発する世界的な金融・経済危機からも同国はいち早く立ち直った。

ドイツは経済が低迷する他の先進国の模範となり、企業の税負担軽減は他の多くの国が追随した。この結果、ドイツは実効税率の国際競争で再び、最下位グループへと転落している。

独財務省のデータによると、同国の17年の実効税率は29.83%で、調査対象の33カ国(欧州30カ国とカナダ、日本、米国)のなかで6番目に高かった。ドイツよりも高かった米国とフランスはその後、税率を引き下げており、米国は18年に27.98%へと低下。フランスは段階的に引き下げていき22年には25%とする計画だ。ドイツは主要7カ国(G7

)のなかで22年の実効税率が最も高い国となる。経済界が問題視するのは税率の高さだけではない。欧州で最も高いエネルギーコストも大きな足かせだと批判している。

メルケル首相は11年の福島原発事故直後、原子力発電の全廃を前倒しするとともに、再生可能エネルギーの拡充を加速する「エネルギー転換政策」を打ち出した。その効果で、再生エネの利用は急速に増えているものの、電力価格も上昇しエネルギー集約型企業の大きな負担となっている。

外資の独評価は急速に悪化

企業を取り巻く環境の悪化は外資のドイツ評価にすでに反映されている。コンサルティング大手アーンスト・アンド・ヤング(EY)が国際的な企業を対象に実施した最新のアンケート調査では、「産業立地としてのドイツの魅力が今後3年間、高まる」との回答は43%となり、前年の同46%から減少。「低下する」は6%から約2倍の11%へと急増した。

「事業活動の一部をドイツから他国に移管する」ことを計画する企業も前年の11%から15%へと増加した。人材難と過去数年間の好景気を背景に人件費が上昇したことのほか、高い実効税率がネックとなっている。

ドイツを対象とする外国直接投資の件数は昨年973件となり、前年比で13%減少した。同件数の後退はEYが調査を開始した05年以降で初めてのことだ。EYは「ドイツはもはや欧州の経済成長のけん引車ではなくなった」として、国際競争力のある企業税制導入を政府に促した。

スイスの国際経営開発研究所(IMD)が5月下旬に公開した最新の「世界競争力ランキング」ではドイツのランキングが昨年の15位から17位へと後退し、06年以来の低順位となった。14年の6位をピークにランクダウンが続いている。税制改革の評価項目で63カ国中59位、デジタル化に向けた取り組みで60位と低迷したことが響いた格好だ。

メルケル首相(中道右派のキリスト教民主同盟=CDU)は寛容で開かれた世界の守護者として世界的に高く評価されている。だが、経済政策に関しては05年の就任以降、新機軸を打ち出していない。近年はエネルギー転換政策の要の一つである送電網敷設や、製造業のデジタル化(インダストリー4.0)の前提となる高速通信網敷設の遅延など、産業競争力の維持・強化に必要不可欠な政策も停滞しており、実行力のなさが露呈している。

その一方で、連立与党SPDの要求を受けて社会保障重視の方向に舵を切っていることから、経済界のフラストレーションは大きい。CDU系の経済団体である「CDU経済評議会」のアストリート・ハムカー議長はTDIで、「過去の経済的な成功の上に胡坐をかいてはいけない」と発言。アゲンダ2010の遺産を食いつぶす現政権を痛烈に批判した。

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