年に6週間以上、病気休業する被用者がいる場合、ドイツでは職場への完全復帰に向けた準備措置として慣らし勤務がしばしば行われる。これは社会法典(SGB)で定められたルールで、「職場復帰マネジメント(Betriebliches
Eingliederungsmanagement=BEM)」と呼ばれる。BEMが成功すれば、当該被用者は晴れて職場に正式復帰し、かつてのように給与を受給できるようになる。慣らし勤務期間はあくまで病休期間であり、当該被用者の生活費は雇用主でなく健康保険が負担する。
BEMでは治療医が復帰計画を作成する。これを雇用主が吟味・了承すると、慣らし勤務が実施されることになる。
雇用主が復帰計画の了承を拒否した場合、職場復帰を目指す被用者側は改めて計画を提出することから、結果的に復職が遅れ、給与の受給再開も遅れることになる。では、こうしたケースでは職場復帰の遅れに伴い受け取れなかった給与を当該被用者が損害賠償として請求できるのだろうか。この問題を巡る係争で、最高裁の連邦労働裁判所(BAG)が5月に判決(8
AZR
530/17)を下したので、ここで取り上げてみる。
裁判は重度の障害を持つ市の技術職員が同市を相手取って起こしたもの。同職員は2014年9月21日から16年3月6日まで病気休業した。
治療医は慣らし勤務を15年11月16日から16年1月15日の2カ月間、実施するとした職場復帰計画を15年10月28日付で作成した。同期間中に原告職員が従事する業務内容に制限を加える必要はないとの見解を提示していた。
被告の市当局はこの計画を拒否した。産業医が15年9月21日付の鑑定書で、原告の慣らし勤務では業務内容に制限を設ける必要があるとの所見を示していたためである。
これを受けて原告側は再び復帰計画を提出した。今回は原告の業務内容に制限を加える必要はないとする精神科医の鑑定書が添えられていたことから、被告は計画を了承。慣らし勤務が16年1月4日から3月4日まで行われた。
慣らし勤務は成功し、原告は3月7日(月)から職場に正式復帰した。
原告はこれを受けて、当初提出した職場復帰計画を市が承認していれば、16年1月18日(月)に正式復帰できていたと主張。市の対応がまずかったことから同日から3月6日まで給与を受給できなかったとして、その期間中の減収額(給与相当額から疾病手当を除いた額)を支払うよう要求し、提訴した。
原告は一審で敗訴したものの、二審で勝訴。最終審のBAGで逆転敗訴した。判決理由でBAGの裁判官は、当初の職場復帰計画を被告が産業医の鑑定に基づいて拒否したことを指摘。被告の拒否は妥当だったとの判断を示した。