独乗用車走行料金にEU裁が違法判決

ドイツが導入を予定する乗用車の国内走行料金(Pkwマウト)は欧州連合(EU)の他の加盟国の市民を不当に差別するものだとして隣国オーストリア政府が起こしていた係争で、EU司法裁判所(ECJ)は18日、この訴えを認める判決を下した。導入に向けた準備を進めていた独政府にとっては大きな痛手で、アンドレアス・ショイアー交通相は「政治的にみて、このPkwマウトは残念ながら実現できない」と明言した。ただECJは、国内の道路を走行する国外の車両から料金を徴収すること自体はEU法に抵触しないとの判断を示しており、ショイアー交通相は新たな形でPkwマウトを導入する可能性を排除していない。

独連邦議会(下院)は2015年、国道を走る乗用車に通行料を課すことを柱とする政府法案(Pkwマウト法案)を可決した。排気量、排ガス性能、燃料の種類に基づいて年22~130ユーロを徴収するという内容だ。ただ、国内で登録されている車両については自動車税とインフラ税(以下:車両税)でPkwマウトが全額相殺されるため、実際の課金対象は国外で登録された車両に限定。また、国外からの車両向けに有効期限が10日および2カ月のヴィネット(料金前払いの道路利用券)が販売されるが、料金は2カ月有効のもので最大30ユーロと、有効期間1年のヴィネット(最大130ユーロ)に比べて割高になっていた。

これに対しEUの欧州委員会は、国内の登録車両に料金の相殺を認めるルールはドイツ在住者に対する優遇策であり、国外の利用者に対する差別に当たる可能性があるとして、見直しを要求。ドイツはこれを受けて同委と交渉し、16年に合意に至った。

具体的には(1)排気量、排ガス性能、燃料に応じて設定する料金区分を独法案に盛り込まれた3種類から5種類に拡大する(2)有効期間が短いヴィネットの料金を全般的に引き下げ、10日間有効なヴィネットでは最低料金を従来の5ユーロから2.5ユーロに半減する――ことにした。排ガス性能が当時最も高かった「ユーロ6」の対応車に関しては所有者の負担額を従来計画よりも総額で年1億ユーロ引き下げることも取り決めた。

(2)の合意により、ヴィネットの料金設定に関しては国外登録車両への差別が解消された。ただ、欧州委がそれまで問題視してきた国内登録車両の料金相殺ルールはそのまま残されており、同委はドイツに譲歩した格好だ。

ドイツの周辺諸国はこの玉虫色の合意を問題視。オーストリアはEU法違反の確認を求める裁判を起こした。裁判ではオランダの支援を受けた。

単一市場の原則にも違反

ECJは今回の判決でまず、EU加盟国は道路インフラ財源の確保方法を原則的に自由に選択できると指摘。ドイツがPkwマウトの導入により、これまでの税負担方式から、国外の自動車保有者を含む受益者が負担する方式へと転換すること自体に問題はないとの判断を示した。

そのうえで、国内登録車から徴収する車両税が道路インフラの財源にどの程度寄与するかに関する情報をドイツ政府が裁判で十分に提示しなかったことを指摘。同情報が不十分なため、Pkwマウトの車両税相殺額が適正かどうかを判断できないなどとして、ドイツが導入予定のPkwマウトは他国籍保有者に対する間接的な差別に当たるとの判断を下した。

ECJはまた、同マウトはドイツに商品とサービスを持ち込む国外の事業者と、同国でサービスを受ける国外の消費者などの独市場アクセスを不当に制限するものだとも認定。EU域内における人、物、サービス、資本の自由な移動を保証した単一市場の原則にも違反するとの判断を示した。

ドイツは欧州委との合意に基づいて修正したPkwマウト法案を議会ですでに可決しているものの、オーストリアの提訴を受けて料金徴収を見合わせている。このため、料金を返還する必要はないものの、料金の徴収と車両の自動コントロールを委託する契約を昨年末に独CTSエヴェンティム、墺カプシュ・トラフィックコムの2社と締結しており、違約金支払いに追い込まれる可能性がある。

両社は19日、独経済省から一方的な解約通告を受けたことを明らかにしたうえで、Pkwマウトの導入取り止めに伴い両社に発生する損失はドイツ国家が補償する取り決めになっていることを指摘。解約がもたらす影響を吟味することを明らかにした。

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