欧州中央銀行(ECB)は23日開いた定例理事会で、金融政策の戦略見直しに着手することを正式決定した。大規模な緩和策を実施しても物価上昇率が目標とする「2%近く」を大きく割り込む状況が続くなか、インフレ目標の見直しやマイナス金利政策の副作用の分析が検証の柱となる。ECBが金融政策の戦略見直しに着手するのは17年ぶり。
ラガルド総裁は理事会後の会見で「経済が劇的に変化するなか、ECBが欧州の利益を最優先して任務を遂行するため、今こそ抜本的な戦略見直しが必要だ」と指摘。検証の期間は1年程度を見込んでいるものの、結論を急ぐつもりはないとして、特定の期限を設けない方針を示した。
戦略見直しでは物価安定の数値目標、量的緩和やマイナス金利などの政策手段とその有効性、経済・金融の分析手法など、ECBが進める金融政策のあらゆる要素が検証の対象となる。さらに雇用や環境分野などの課題をどのように金融政策に取り入れるかについても検討する。ラガルド総裁は特に気候変動対応でECBが果たすべき役割について議論する意向を示した。
最も注目されるのは、現在「現在2%に近く、2%を下回る」としている物価目標だ。同総裁は「物価の計測方法については検討が必要だ」と述べるにとどめ、詳細には触れなかった。ECB内では数値目標に弾力性を持たせ、一時的に2%を超えることも容認すべきだといった意見が出ている。
環境問題に関しては、「気候変動や生物多様性の保全について、自分に何ができるか考えることは全ての人の責任だ」と強調。グリーンボンド(環境債)の購入を含め、ECBが果たす役割を探る考えを示した。ドイツなどはECBによる気候変動問題への対応に否定的だが、ラガルド総裁は欧州連合(EU)内に意見の隔たりがあることを認めたうえで、「何もしないこともリスクになる。挑戦しないことは失敗と同じだ」と述べ、この問題については年内に結論を出す方針を明らかにした。