ドイツ政府は23日、新型コロナウイルスの感染拡大で資金繰りが悪化した企業などを支援するための法案を閣議決定した。本来は健全な企業が経営破たんし、経済・社会に深刻な影響が出るのを回避する狙い。巨額の資金を必要とすることから、財政赤字の計上を回避する「シュヴァルツェ・ヌル(黒字のゼロ)」政策を棚上げにする。法案は今週中にも連邦議会(下院)と連邦参議院(上院)で審議・可決される見通しだ。
新型コロナの流行を受けて企業は需要の激減やサプライチェーンの寸断、営業停止命令などの危機に直面している。これらの問題は大企業から零細企業、個人事業者まであらゆるレベルの事業者を直撃しており、政府が迅速に救いの手を差し伸べなければ多くの企業が経営破たんし、失業者が急増するのは必至の情勢だ。
政府はそうした事態を避けるために様々な政策を実施する。比較的規模が大きい企業向けには資金総額6,000億ユーロの「経済安定化基金(WSF)」を設立。そのうち4,000億ユーロを融資保証、1,000億ユーロを経営が悪化した企業への国の出資(国有・半国有化)に充てる。残り1,000億ユーロは企業支援プログラムを実施するドイツ復興金融公庫(KfW)への融資に回す。
企業は受注の激減や営業停止命令で資金繰りが急速に悪化しても、事務所の賃貸料、通信費などは払い続けなければならない。経営基盤が大きい企業であれば公的保証付きの融資を受けて当座をしのぐことができるが、零細企業や個人事業者の多くは融資を受けるのが難しく、短期間で資金繰りに行き詰る恐れがあることから、政府は個人事業者と被用者5人以下の企業に最大9,000ユーロ、被用者6~10人の企業に最大1万5,000ユーロの補助金を交付する。計500億ユーロの予算を組む意向だ。
政府はこのほか、新型コロナの影響で収入が激減した世帯の支援や、病院への助成なども計画していることから、今年は1,560億ユーロの新規国債を発行することを決めた。7年ぶりに財政赤字を計上することになる。これまでは景気低迷にもかかわらずシュヴァルツェ・ヌル政策に固執し、批判を受けてきた。ここにきて経済の大幅なマイナス成長がほぼ確実となったことから、ようやく方針を転換した。
アンゲラ・メルケル首相は今回の閣議に自宅から電話で参加した。新型コロナへの感染が確認された医師に接触したことを受けて、22日夜から隔離されているためだ。