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2020/4/8

総合 - ドイツ経済ニュース

感染拡大のスピード鈍る、政府は外出制限などの緩和に慎重

この記事の要約

1人の感染者が何人に感染させたかを示す「基本再生産数」は1へと低下したという。

感染者に占める感染死者の割合は1.2%で、3月31日の0.8%から0.4ポイント上昇した。

最近は介護施設や病院で高齢者の集団感染が発生していることから、今後は感染者の平均年齢が上昇して死亡率が高まる可能性が高い。

新型コロナウイルスの感染拡大のスピードが鈍化してきた。国と州が導入した措置が効果を発揮しているもようだ。これを受けて経済界や学識経験者の間からは慎重ながら市民の行動や経済活動の自由を段階的に回復させるよう提言する動きが出てきたが、政府は出口戦略について明言を避けている。アンゲラ・メルケル首相は6日、「現時点で制限緩和の時期を語ることは好ましくない」との立場を示した。

ドイツでは3月に入って感染者数が急増した。国と州はこれを受け同月中旬、学校や保育施設の全面休校、国境管理の導入、スーパーマーケットや薬局、銀行など基本的な生活の維持に必要な店舗を除くサービス事業者の営業停止を相次いで実施。市民には不急不要の外出を控えるよう呼びかけた。この呼びかけを軽視・無視する人が少数派ながらいたことから、23日には外出制限を自粛から命令へと切り替えるとともに、人々が友人などと会う機会を減らすために飲食店の営業も禁止した。

これらの措置の効果がこのところ明確になっている。ロベルト・コッホ研究所(RKI)のロタール・ヴィーラー所長は3日、1人の感染者が何人に感染させたかを示す「基本再生産数」がここ数日1となり、ピーク時の7から大幅に低下していることを明らかにした。1にとどまれば新規の感染者は増えず、1を下回れば減少していくことから、地平線に薄明かりが見えてきた格好だ。ただ、ヴィーラー所長は同時に、「わが国は今なおエピデミックの初期段階にあり、警戒を緩めてはならない」と注意を促した。

国内の感染者数は同日、7万9,696人となり、前日に比べ6,174人増えた。増加数は依然として多いものの、感染者数が倍増するスピードは9日となり、前週末の同5日、3月初旬の同2日から鈍化した。今月5日には同10.4日とさらに遅くなっている。

「学校再開で働く親の負担軽減」

政府はこのスピードが14日まで鈍ることが、現在行っている外出・接触制限措置などの緩和の前提条件になるとしている。このため、このまま順調に行けば、緩和の前提を満たせることになる。

状況が改善に向かっていることを受けて、独雇用者団体連合会(BDA)のインゴ・クラーマー会長は、5月には制限措置の緩和が始まり、企業の操業短縮も夏までにほぼ終了するとの期待感を表明した。

Ifo経済研究所のクレメンス・フュスト所長は3日、医学者や自然科学者など13人と共同でポジションペーパーを発表。リスクを勘案しながら制限措置を柔軟かつ段階的に緩和していくことを提言した。新型コロナに対するワクチンも治療薬も存在しない現状では高齢者などのリスクグループを守ることが必要不可欠としながらも、リスクの低いセクターや地域では適切な予防措置を取りながら他に先駆けて正常化できると指摘。高度に自動化された工場は従業員間の距離を保ったり、マスク着用を義務付けることで再稼働できるとしている。学校や保育施設についても、就労する親の負担を減らすためにも速やかに再開するべきだとの立場だ。

財界系シンクタンクのドイツ経済研究所(IW)はイースター休暇(10~13日)後に段階的に制限を解除できるとの見解を示した。それによると、学校や企業は全面的な感染検査を実施したうえで再開。オフィスであれば感染予防策を取ることで従業員が勤務できるとしている。飲食店についてはテーブル間の距離を十分に確保することが前提になるとの立場だ。一方、マッサージやケータリング、会議用ホテルなどは近い将来の業務の再開が難しく、大規模な支援が必要とみている。

こうした提言にもかかわらず政府が制限緩和に慎重な姿勢を示すのは、市民の緊張感が緩んでこれまでの成果が台無しになることを警戒しているためだ。気の緩みや緩和の結果、感染者数拡大のスピードが再び速まれば、医療崩壊のリスクが高まるうえ、制限措置を再導入せざるを得なくなる。そうなると、企業の経営危機と景気悪化は現在以上に加速することから、政府の支援額は一段と膨らみ、財政の大幅悪化をもたらすことになる。メルケル首相は6日、「それを避けようとしている」と述べ、経済・社会生活を正常化するためには新型コロナからの市民の保護を最優先しなければならないとの認識を示した。