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2020/11/25

総合 - ドイツ経済ニュース

自動車業界支援を国が拡大、総額は30億ユーロ増の50億に

この記事の要約

ドイツ政府は17日、与党、自動車産業が盛んな州、自動車業界労使の代表などとのテレビ会談で、同業界への支援を大幅に拡大することを明らかにした。100年に1度の構造転換と新型コロナ危機という2つの試練に直面する業界をサポート […]

ドイツ政府は17日、与党、自動車産業が盛んな州、自動車業界労使の代表などとのテレビ会談で、同業界への支援を大幅に拡大することを明らかにした。100年に1度の構造転換と新型コロナ危機という2つの試練に直面する業界をサポート。独業界が長期的に高い競争力を保てるようにするとともに、国内車両の電動化を促進する狙いだ。

自動車業界では車両の「通信端末化」「自動運転化」「シェア化」「電動化」を意味する「CASE」という構造転換がすでに始まっている。これには多額の投資を要するうえ、ドイツメーカーは米IT大手や電気自動車(EV)専門メーカーの米テスラなど新興勢力の挑戦を受けてこれまでの優位性を失う恐れがある。

政府はこの事情と、新型コロナ危機で自動車業界が厳しい状況に陥っていることを踏まえ6月に「自動車業界の将来投資」支援プログラムを打ち出した。具体的には◇新しい生産設備、インダストリー4.0(つながる工場)、環境保護の促進に向けた投資と、生産そのものの革新の支援◇人工知能(AI)や新しい駆動装置などの研究開発支援および製品の革新の促進◇技術革新に向けて企業が共同で進めるクラスター構築の支援――を考えている。支援総額は20億ユーロ。

今回の会議では支援額を30億ユーロ上乗せし50億ユーロとする方針を明らかにした。具体的には(1)総額10億ユーロの「自動車業界の将来ファンド」を設立し、「自動車業界の将来投資」支援プログラムを補完する(2)現行の電動車購入補助金制度の期限を2021年末から25年まで延長する(3)企業のトラック買い替え支援と公共機関の特殊車両購入に総額10億ユーロを拠出する――意向だ。

(1)は事業のCASE化に取り組む中小・中堅サプライヤーのサポートが柱となっている。

電動車購入補助金はEVなどの普及を促進するために16年7月に導入された。補助金額は当初、カタログ価格4万ユーロ以下のEVと燃料電池車(FCV)で6,000ユーロ、同4万ユーロ超のEVとFCVで5,000ユーロ、4万ユーロ以下のプラグインハイブリッド車(PHV)で4,500ユーロ、4万ユーロ超のPHVで3,750ユーロとなっていた。補助金は国と各メーカーが折半してきた。

政府は新型コロナ危機対策の一環として7月、同補助金の国の負担部分を時限付きで2倍に増やした。この結果、例えば4万ユーロ以下のEVであれば購入者は9,000ユーロの補助金(国が6,000ユーロ、メーカーが3,000ユーロを負担)を受けられるようになった。政府はこの上乗せ補助金制度を25年まで延長。新たに10億ユーロの予算を計上する。ただ、PHVについては22年以降、電動走行の航続距離が60キロ未満の車両を補助金の対象から除外する考えだ。

急速充電器設置をスタンドに義務付け

トラック買い替え支援は、古いトラック(ユーロⅢ、Ⅳ、Ⅴ)を廃車にして電気トラック、燃料電池トラック、ユーロⅥ対応のトラック(ディーゼル車)を購入する企業に補助金を支給するというもの。電気トラックと燃料電池トラックの補助金はディーゼル車よりも高く設定する。支援総額は5億ユーロを予定している。国はこのほか、消防車や緊急車両など公的機関が調達する車両に総額5億ユーロを提供する。

会議ではガソリンスタンドに急速充電器の設置を義務付ける方針も明らかにされた。22年末までに国内のガソリンスタンドの最低25%、24年末までに同50%、26年末までに同75%が急速充電器を備えるようにする考え。石油業界に対しこれらの目標を自主的に達成することを促す。達成できない場合は法律で義務付ける。

充電インフラの設置に対しては政策金融機関のドイツ復興金融公庫(KfW)が低利融資を行う。連邦交通省は支援プログラムの規模を大幅に拡大する意向だ。石油業界団体MWVのクリスティアン・キュッヘン専務理事は『フランクフルター・アルゲマイネ』紙に、国が要求する急速充電器の設置比率を達成できるかどうかは今後の助成規模にかかっているとして、政府の支援拡大に期待を示した。