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2021/1/20

総合 - ドイツ経済ニュース

水素経済実現へ、政府がプロジェクト支援に7億ユーロ

この記事の要約

ドイツ連邦教育・研究省(BMBF)は13日、環境に優しい「グリーン水素」の実用化に向けて計3件のプロジェクトを支援すると発表した。同国は炭素中立目標の達成に向けて国内で水素経済を実現するとともに、グリーン水素に関連する技 […]

ドイツ連邦教育・研究省(BMBF)は13日、環境に優しい「グリーン水素」の実用化に向けて計3件のプロジェクトを支援すると発表した。同国は炭素中立目標の達成に向けて国内で水素経済を実現するとともに、グリーン水素に関連する技術分野の輸出国となることを目指していることから、産学官が連携して技術上の課題を他国に先駆けて解決する考えだ。2025年までに総額7億ユーロの助成を行う。

ドイツ政府は昨年6月、グリーン水素の実用化に向けた「水素戦略」を閣議了承した。国内の二酸化炭素(CO2)の排出削減を図るとともに、水素の環境に優しい製造から利用に至る全バリューチェーンで世界を主導する技術を確立し輸出産業に育て上げることが狙い。総額90億ユーロのプログラムを通して水素経済を実現する意向だ。

水素は製法に応じて◇再生可能エネルギーを用いて水を電気分解して製造するグリーン水素◇化石燃料から水素を取り出すため水素生産に際してCO2が排出される「グレー水素」◇化石燃料から水素を取り出すものの、発生するCO2を有効利用ないし貯留する「ブルー水素」――の3種類に分類される。政府はCO2が発生しないグリーン水素の分野で技術開発を支援する。国内のグリーン水素生産能力で25年までに5ギガワット(GW)を実現する目標だ。

BMBFが今回、助成を決めたのは(1)グリーン水素の低コスト生産に欠かせない電解槽量産技術の開発プロジェクト「H2ギガ」(2)洋上風力パークで発電した電力を送電せずその場で水素などの生産に投入するプロジェクト「H2マーレ」(3)グリーン水素の輸送ソリューション開発プロジェクト「トランスハイデ」――の3件。

水素製造用の電解槽は現在、主に手作業で製造されている。これが水素製造コストの上昇につながり、グリーン水素商業化の障害となっていることから、H2ギガでは電解槽を機械的に製造する技術を開発し水素を低価格で生産できるようにする狙いだ。プロトン交換膜(PEM)電解槽、アルカリ電解槽(AEL)、高温電解槽(HTEL)の量産技術開発を目指す。また、アニオン交換膜(AEM)電解槽の開発に取り組む。同プロジェクトには産学から計112の企業、団体、機関が参加。化学・バイオテクノロジー協会(Dechema)が調整役を務める。

H2マーレは洋上風力発電施設の隣接海域に電解槽を設置して水素を生産するほか、水素を用いて川下製品のメタン、メタノール、アンモニア、合成燃料(eフューエル)も製造する「パワー・ツー・X」プロジェクト。海上での生産は陸上に比べ難しいものの、◇洋上風力発電は陸上風力発電に比べ設置可能な潜在面積が多いうえ、1基当たりの平均発電量も多い◇送電網が不要なことから電力コストを軽減できるうえ、発電網の過剰負荷を回避するために発電を停止するという無駄も回避できる――というメリットがある。エネルギー設備大手シーメンス・エナジーを中心に産学の計33社・機関が参加。風力発電タービンは同社傘下のシーメンス・ガメサが提供する。

ドイツ国内の再生エネ発電能力には限界があり、グリーン水素の生産が本格化すると国内産の再生エネでは電力需要を賄いきれなくなる。このため政府はアフリカ諸国やオーストラリアなど太陽光発電に適した地域や、チリなど風力資源の豊かな地域で水素を低コスト生産し輸入することを念頭に置いている。

トランスハイデではこれを踏まえ◇高圧容器での水素輸送◇液体水素の輸送◇既存・新設のガスパイプラインを利用した輸送◇アンモニアないし、化学反応によって水素を吸収・放出できる有機化合物「液体有機水素キャリア(LOHC)」での輸送――の4プロジェクトを実施。短距離、中距離、長距離輸送にそれぞれ適した方法を探っていく。また、総合的な水素輸送インフラの予想図や、輸送の標準・規格・安全規定の作成を行う。トランスハイデには産学の89団体・企業・機関が参加。調整役はマックス・プランク化学エネルギー変換研究所、フラウンホーファー・エネルギーインフラ・地熱研究所、再生エネ大手RWEリニューアブルズが担当する。