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2021/3/31

総合 - ドイツ経済ニュース

「州のコロナ対策は不適切」、首相が名指し批判

この記事の要約

ドイツのアンゲラ・メルケル首相は28日のテレビインタビューで、新型コロナウイルスの感染拡大防止に向けた取り組みが不適切な州があると批判した。新規感染者数が急速に増えるなか、国とのコロナ規制合意を都合よく解釈し小売店などの […]

ドイツのアンゲラ・メルケル首相は28日のテレビインタビューで、新型コロナウイルスの感染拡大防止に向けた取り組みが不適切な州があると批判した。新規感染者数が急速に増えるなか、国とのコロナ規制合意を都合よく解釈し小売店などの営業規制緩和を進める動きを踏まえた発言で、具体的な州名を挙げて問題を指摘。新規感染者数が一定水準を超えた地域に対しは厳しい制限措置を速やかに復活させるというルールを厳格に適用するよう注意を促した。これらの州が姿勢を改めない場合は規制権限を州から取り上げ、国が直接、指示を出す体制に改める意向だ。

同国は感染第3波のただ中にあり、新規感染者数は増加の一途をたどっている。ロベルト・コッホ研究所(RKI)の30日の発表によると、人口10万人当たりの直近7日間の新規感染者数(7日間の発生数)は135人に達した。直近の底である2月中旬(57人)に比べ約2.4倍に増えている。感染力の高い英国株が主流となっていることから、感染拡大のスピードは速く、ロタール・ヴィーラー所長は26日、1日当たりの新規感染者数が現在の5倍の10万人に拡大する恐れがあると明言。すみやかに対策を取らなければ重大な結果を招くとして、昨年春のような全面的なロックダウン(都市封鎖)の実施が好ましいとの見解を示した。

英国株の流行を背景に新規感染者数は2月下旬から拡大が続いているものの、メルケル首相と国内16州の首相は3日の会議で、規制緩和を取り決めた。ロックダウンの長期化に伴う小売店などの経営悪化と市民の規制疲れを踏まえた措置で、7日間の発生数が100人以下の地域では条件付きで小売店の店舗営業を認めるなどのルールを8日付で導入した。感染状況が悪化しなければ条件を段階的に緩和することになっている。

一方、状況が悪化し、7日間の発生数が3日連続で100人を超えた地域に対しては「緊急ブレーキ」というルールを適用することも取り決めた。該当する地域では従来の厳しい制限措置を再導入することになっている。この決まりを厳格に適用することは22~23日の会議で再確認した。

緊急ブレーキより抗原検査

7日間の発生数が100人以下の州は現在、シュレスヴィヒ・ホルシュタインとラインラント・ファルツの2州にとどまり、残り14週は100人を超えている。それにもかかわらず緊急ブレーキを踏まない州が多い。

メルケル首相は危機感を募らせており、テレビインタビューではラインラント・ファルツ(RLP)、ベルリン、ノルトライン・ヴェストファーレン(NRW)の3州を名指しで批判した。これら3州を含む複数の州は抗原テストで陰性の人に小売店への入店や映画館・屋外の飲食店などの利用を検査日に限って認めるというプロジェクトを実施・計画している。そうしたプロジェクトを全国に先駆けて16日に開始した西南ドイツの中都市テュービンゲンではこれまでのところ新規感染者数が許容上限の100人を下回っていることから、追随の動きが急速に広がっている。

だが、ベルリンとNRWでは7日間の発生数がそれぞれ137人、132人とレッドラインの100人を大きく突破している。それにもかかわらず、抗原検査を活用すれば営業規制を緩和できることをプロジェクトで確認する、あるいは抗原検査の大規模な実施で感染ルートを追跡しやすくなる――などと主張。NRWは多くの都市・郡でテュービンゲンを手本とするプロジェクトを29日にスタートさせた。RLPは同様のプロジェクトをイースター休暇明けの4月6日から州全域で行う計画だ。

大都市や感染者数が極めて多い地区でテュービンゲン・モデルが適切に機能するかどうかには疑問の声が出ている。また、同市では新規感染者が急増し始めており、7日間の発生数は25日の35人から28日には約2倍の67人に拡大した。国内412地区の7割に当たる285地区で同100人を超えている現状を踏まえると、抗原テストを活用した規制緩和戦略はリスクが大きい。

一貫性の欠如が不信の原因

政府のコロナ危機管理に対する市民の信頼はここ数カ月、急速に低下している。アレンスバッハ世論研究所の最新の有権者アンケート調査によると、政府のパンデミック対策を「評価する」との回答は30%となり、「評価しない」(62%)の半数以下にとどまった。昨年8月までは「評価する」が70%を大きく上回っていたが、その後は低下。12月以降は下落が加速している。

市民の規制疲れがその理由としてしばしば指摘される。制限・禁止措置をストレスと感じる人は昨年5月の41%から57%に増加していることから、この説明は一見、もっともらしくみえる。

だが、政府の対策を評価しない理由をみると、「恣意的で矛盾している」(75%)、「計画性がない」(70%)といった回答が上位を占めている。公共放送ZDF向けに調査機関ヴァーレンが実施した今月下旬の調査では「コロナ規制を強化すべきだ」との回答が2月末の前回調査から18ポイント増の36%へと急拡大した。これらの調査からは、市民の多くが求めているのは安易な規制の緩和でなく、軸足のぶれない一貫性のある対策であることを読み取ることができる。

ドイツのコロナ対策はメルケル首相と州の首相の協議で取り決められている。その際、感染拡大を恐れるメルケル首相が厳しい規制を求めるのに対し、状況がやや改善すると少なからぬ州が緩和を要求。意見の相違を調整する結果、取り決められる対策は中途半端なものになる傾向がある。また、合意内容を拡大解釈して規制を実質的に緩和する州が多い。

こうしたちぐはぐがコロナ危機管理に対する市民の不信感を引き起こしている。国と州が対策を共同で取り決めるこれまでの方式を、国が取り仕切る方式へと改めれば政策の一貫性は確保しやすくなる。メルケル首相はこうした事情を念頭に州批判を行ったとみられる。