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2021/5/12

総合 - ドイツ経済ニュース

アストラゼネカのワクチンで順位規制解除、接種間隔も最短4週間に短縮

この記事の要約

ドイツのイェン・シュパーン連邦保健相と国内16州の保健相は6日の会議で、アストラゼネカの新型コロナウイルス用ワクチンを対象に接種の優先順位規制を即時解除することを取り決めた。同ワクチンは血栓リスクがあることから人気が低く […]

ドイツのイェン・シュパーン連邦保健相と国内16州の保健相は6日の会議で、アストラゼネカの新型コロナウイルス用ワクチンを対象に接種の優先順位規制を即時解除することを取り決めた。同ワクチンは血栓リスクがあることから人気が低く大量に余っている。ワクチン接種完了者は9日から行動制限措置が緩和されること受けて、優先対象外の市民の間に不満が高まっていたこともあり、アストラゼネカ製であれば希望者全員が接種を受けられるようにした。接種間隔規制も緩和した。シュパーン保健相は10日、同様に血栓リスクが指摘されているジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)製のワクチンについても順位規制を解除したことを明らかにした。ビオンテック/ファイザー製など他のワクチンについては同規制を解除していない。

同国ではコロナワクチンの接種が12月下旬に始まった。当初はワクチンの供給量が少なかったこともあり、政府は市民を年齢、重大な基礎疾患の有無、職業に応じて4グループに分け、優先順位を設定。年齢別では80歳以上を第1優先グループ、70歳以上を第2優先グループ、60歳以上を第3優先グループに振り分けた。基礎疾患のない60歳未満の市民は医療関係者や警察官など感染リスクの高い職業従事者を除き、順位規制が解除されるまで接種を受けることができない決まりだ。現在は第3優先グループ以上の人が無制限で接種を受けられる。

アストラゼネカとJ&Jのワクチンでは比較的若い世代で、接種後に血栓が形成され死亡する事例が複数、報告されている。血栓発症のリスクは極めて低いものの、ドイツでは慎重を期して接種対象を原則60歳以上に限定。60歳未満には医師のリスク説明と本人の同意がなければ接種できない決まりとなっている。

60歳以上では血栓リスクがないとされるものの、アストラゼネカ製品を割り当てられた高齢者が接種の予約をキャンセルするケースが多く、ワクチンがだぶついている。このため余剰となったワクチンを優先対象外の希望者に接種する動きがすでに州レベルで出ていた。

6月下旬からバカンスシーズンに

欧州連合(EU)でこれまでに認可されたワクチンはアストラゼネカ、ビオンテック、モデルナ、J&Jの計4製品。このうちJ&J製品を除く3製品は接種を2回行う必要がある。1回目の接種と2回目の接種の間隔はビオンテック製品が3週間、モデルナ製品が4週間、アストラゼネカ製品が4~12週間となっている。

アストラゼネカ製品の場合、接種間隔が短いとワクチンの効果が低いとの報告があることから、ドイツではこれまで10~12週間としてきた。今回の会議ではこれを4~12週間へと柔軟化することを決めた。

背景には夏季バカンスシーズンが近づいていることがある。学校の夏休みが始まるのは最も早い州で6月21日、遅い州で7月30日となっていることから、早い時点で1回目の接種、その4週間後に2回目の接種を受ければ、2回目の接種の2週間後に接種完了者となり、国外旅行後の自主隔離義務などが免除される。

ロベルト・コッホ研究所(RKI)の予防接種常任委員会(Stiko)はワクチン接種をまだ受けていない高齢者が多いことを踏まえ、順位規制を解除しないよう提言してきたが、国と州はワクチンのだぶつきと市民の不満を踏まえ部分解除を決めた。公共放送ZDFの委託で世論調査機関ヴァーレンが実施した最新の有権者アンケート調査では、順位規制の全面解除を求める人が70%に上っている。

アストラゼネカ製ワクチンの接種間隔を短縮する場合は、医師がデメリットを説明したうえで、被接種者が同意する必要がある。

集団免疫獲得を80%に引き上げ

コロナワクチンの接種を受けられるのは現在、ビオンテック製品で16歳以上、モデルナとアストラゼネカの製品で18歳以上となっている。ビオンテック製品についてはカナダが5日、同年齢を12歳以上に引き下げることを決めた。未成年を対象とする臨床試験の結果を踏まえた措置で、米国も近く追随する見通し。EUは同様の決定を6月に下すと見込まれている。シュパーン保健相はこれを踏まえ、8月末までには12歳以上の子供も1回目の接種を受けることが可能になるとの見方を示した。生徒が接種を受ければ学校での感染リスクが大幅に下がることから、対面授業を本格的に再開できるようになる。子供の学力不足・格差につながる遠隔授業が終わり、働く親の負担も軽減のメドが立ちそうだ。

ワクチンの接種回数はこのところ毎日100万回程度に上っており、1回目の接種を終えた人は6日時点で人口の30.6%、2回は同8.6%となった。RKIのロベルト・ヴィーラー所長は7日の記者会見で、接種者の増加により新型コロナを制御できるとの希望が出てきたと述べるとともに、感染防止のための規制をほぼ全面的に解除するためには80%以上の人が免疫を獲得する必要があると指摘した。これまでは同60~70%で集団免疫を獲得できるとの見方を示してきたが、感染力の高い変異株の流行を受けて引き上げた。ワクチン接種に拒否・懐疑的な人が少なくないことや、12歳未満は現時点で接種のメドが立っていないことを踏まえると、コロナ禍前の「普通の生活」に戻るにはまだまだ時間がかかりそうだ。