農薬大手の独バイエルは5月27日、同社の除草剤「グリホサート」を巡る裁判で原告側と取り決めた和解の一部を断念すると発表した。将来の訴訟への対応を取り決めた和解内容に対する裁判所の疑念が解消されないことを受けたもので、裁判所の同意を得られなかった部分について独自の解決策を展開することにした。ヴェルナー・バオマン社長は「(わが社が)提案した全国レベルの問題解決メカニズムをこの裁判所の監督下でさらに展開することは不可能だ」と明言した。
グリホサートは米農業化学大手モンサントが1970年に開発した農薬。除草効果が高いことから世界で幅広く使用されているものの、悪性腫瘍の一種である非ホジキンリンパ腫を引き起こす疑いが持たれている。バイエルは2018年のモンサント買収に伴い同剤を取得したことから、訴訟に直面することになった。
同社は昨年6月、グリホサートを巡る訴訟で和解した。現行訴訟の原告に88億~96億ドル、今後がんを発症し同社を訴える可能性がある潜在的な原告に最大12億5,000万ドルをそれぞれ支払うという内容だ。潜在的な訴訟に関する合意では、◇グリホサートに発がん性があるかどうか、およびあるとすればどの程度の量で発症するのかを評価する専門家委員会を設置し、判断を仰ぐ◇同委が判断を下すまで将来の原告は損害賠償などを請求できない――ことを取り決めた。
サンフランシスコにある連邦裁判所の裁判官は翌月、同合意のうち将来の潜在的な訴訟に関する部分に疑義を表明した。具体的には、◇法律に基づく裁判官と陪審委員の決定権が専門家委員会によって掘り崩される恐れがある◇グリホサートに発がん性があるかどうかの因果関係が科学的に証明されていないにも関わらず専門家委が同除草剤の発がん性を否定するなど将来の原告に不利な判断を下した場合、将来の原告はこの判断の正当性に疑問を投げかけ、拘束されることを拒否する可能性が高い――と指摘した。
バイエルはこれを受け、新たな和解案を提示。◇将来の潜在的な原告への支払い総額を最大20億ドルに引き上げる◇補償基金を設立し、設立後4年以内に非ホジキンリンパ腫を発症したグリホサートの使用者に基本的に1万~6万ドル、最大で20万ドルを支払う――ことを提案した。
裁判官はこれに対しては19日、非ホジキンリンパ腫が発症するのはグリホサート使用の10~15年後だとする研究結果を踏まえると、潜在的な原告に対する補償の受付期間が4年というのは短すぎ不当だと指摘。提案を退けたことから、バイエルは潜在的な原告に関する解決を裁判所の関与なしに行うことを決めた。同社を今後、提訴する潜在的な原告との係争を独自のメカニズムを通して解決していく意向だ。同メカニズムの詳細は明らかにしていない。
既存の原告との和解については今後も裁判所の監督下で進めていく。これまでに原告12万5,000人強のうち約9万6,000人と和解した。