新型コロナウイルスの感染状況が一段と改善している。新規感染者数の減少とワクチン接種者の増加が手を携える形で進展。新型コロナウイルスの接種を証明するデジタルワクチンパスポートの運用も始まった。コロナ禍前の生活に戻る見通しはまだ立っていないものの、正常化の方向に向かっているのは確かで、公共の場でのマスク着用義務の緩和が議論され始めた。
ロベルト・コッホ研究所(RKI)の15日の発表によると、人口10万人当たりの直近7日間の新規感染者数(7日間の発生数)は15.5人まで低下した。コロナ「危険地域」の基準である50人超を大幅に下回る。直近のピークである4月26日(169.3人)に比べると10分の1以下だ。16州のうち5州では1ケタ台まで下がった。最大のバーデン・ヴュルテンベルクも22人にとどまる。
ワクチンの接種を少なくとも1度、受けた人の割合(人口比)は14日時点で48.4%に達した。接種を完了した人も26.2%と4分の1を超える。
こうした状況を受けて、デジタルワクチンパスポートの専用アプリを10日からスマートフォンにダウンロードできるようになった。デジタルワクチンパスがあると紙ベースの接種証明書(黄色)をいちいち持ち歩く必要がなくなることから、日常生活や旅行で役に立つ。遅くとも7月1日からは欧州連合(EU)の全域で使用できるようになる。
専用アプリには「Corona-Warn App」と「CovPass-APP」の2種類がある。ともにRKIが作成した。Corona-Warn Appは昨年導入されたコロナ接触追跡アプリの最新バージョン(Version 2.2)で、新たにワクチンパス機能が追加されている。
デジタルワクチンパスはワクチン接種センターないし開業医などで接種を受けた際に作成する。提示されたQRコードを、アプリを開いて撮影すれば良い。接種完了から14日が経過すると、十分な免疫力の獲得を意味する「完全な接種保護(Vollstaendiger Impfschutz)」のステイタスを取得したことが表示される。
すでに接種を完了した人は同パスを開業医ないし薬局で事後的に作成することができる。その際は身分証明書と紙の接種証明書を提示しなければならない。料金は国が負担するため無料。メディア報道によると、多くの州はワクチン接種センターで接種を完了した人に、今後数週間以内にQRコードを郵送する。これを受け取った人はアプリで撮影すれば良い。
開業医と薬局はデジタルワクチンパスの作成支援サービスを義務付けられていない。ただ、開業医の大半は同サービスを提供する見通し。薬局については薬局検索サイト「Mein Apothekenmanager(https://www.mein-apothekenmanager.de/)」でサービス提供店を14日から探せるようになった。
デジタルワクチンパスは飲食店やイベント、空港で使用することを想定している。例えばレストランでは入店に際してアプリを開いてQRコードを身分証明書とともに提示。店員は読み取り専用のアプリでQRコードが本物かどうかを確認する。紙製の接種証明書は引き続き使用できる。
デジタルワクチンパスはEUの全加盟国で有効だ。すでに一部の国では運用が始まっている。日本などEU域外の国では現時点で使えないものの、ノルウェー、アイスランド、スイス、リヒテンシュタインはEUのデジタルワクチンパス制度に参加する意向を示している。
渡航規制を7月に緩和
11日にはドイツ外務省が、新型コロナウイルスの「危険地域」を7月1日付で渡航警告の対象から除外すると発表した。国内と欧州の感染状況改善とワクチン接種の進展、デジタルワクチンパスの導入を踏まえた措置。ハイコ・マース外相は「数カ月に渡る長いロックダウン後に我々はノーマルな生活をより多く享受することが許される。これは旅行にも当てはまる」と述べた。渡航警告の対象は新規感染者数が極めて多い「高感染数地域」と変異株が流行する「変異株地域」だけとなる。
ドイツは7日間の発生数が200人超の地域を高感染数地域と規定している。危険地域はこれまで1年以上、渡航警告の対象となっていた。独外務省は危険地域への不要不急の観光旅行を7月1日以降も控えるよう促しているものの、渡航警告の対象からは外す。約100カ国が該当する。
高感染数地域は現在25カ国、変異株地域は同13カ国に上る。
屋外マスク着用義務廃止に8割が賛成
新規感染者数の大幅減少を受け、クリスティーネ・ランプレヒト法相は13日、マスク着用義務の見直しを州に促した。同義務を廃止すべきなのかどうか、廃止するとすればどのような場所や場面なのかを検討するよう求めている。イエン・シュパーン保健相は翌日、第1段階として屋外での着用義務廃止に賛意を示した。世論調査会社ユーガブの市民アンケートでは80.5%が屋外での義務廃止に賛成している。
ただ、ワクチン接種がドイツよりも進んでいる英国でデルタ株(インド変異株)の感染が急速に拡大していることから、与野党や専門家からは時期尚早との声も出ている。独集中・緊急医療学際協会(DIVI)のゲルノート・マルクス会長は、ワクチン接種率が70%に達した時点で新規感染者数が低水準にとどまっていることがマスク規制緩和論議の前提になると指摘。早期緩和の結果、感染者数が再び急増することに警戒感を示した。ビアガーデンや店舗前の行列など屋外であっても多くの人が密集し社会的距離を保てない場所ではマスクを着用した方が良いとしている。