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2021/6/23

総合 - ドイツ経済ニュース

新型コロナ再流行の懸念、「秋までにデルタ株が主流に」=RKI所長

この記事の要約

新型コロナウイルスをめぐり新たな懸念が浮上している。ドイツ国内の新規感染者数は大幅に減ったものの、ワクチン接種で先行する英国で感染力が極めて高いデルタ型変異株(インド株)が流行しているためだ。ワクチン接種を完了した人では […]

新型コロナウイルスをめぐり新たな懸念が浮上している。ドイツ国内の新規感染者数は大幅に減ったものの、ワクチン接種で先行する英国で感染力が極めて高いデルタ型変異株(インド株)が流行しているためだ。ワクチン接種を完了した人では従来株同様に感染リスクが低いことから、全国的な接種キャンペーンを速やかに展開できるかが今後の感染状況のカギを握る見通しだ。感染の新たな波(第4波)が到来すると、景気回復にもしわ寄せが出る恐れがある。

ロベルト・コッホ研究所(RKI)の22日の発表によると、人口10万人当たりの直近7日間の新規感染者数(7日間の発生数)は8.0人となり、4日連続で10人を下回った。直近のピークである4月26日(169.3人)に比べると20分の1以下に減っている。

ワクチンの接種を少なくとも1回、受けた人の割合(人口比)は21日時点で50.8%と過半数を超えた。接種完了者も31.1%に上る。

高齢者への接種を優先したこともあり、重症化して集中治療を受ける患者は889人まで減った。直近のピークである4月26日には5,122人に達していた。

こうした状況を受け、各地では感染防止策の緩和が進み、小売店や飲食店の営業は正常化に近づいている。大都市のショッピングエリアでは屋外でのマスク着用義務が廃止されつつある。

感染の第1波が起きた昨年は気温の上昇につれて新規感染者が急速に減少した。今年も同じパターンで状況が改善している。

だが、デルタ株に関してはこの経験則が当てはまらないもようで、英国やポルトガルなどすでに夏を迎えている国で流行している。このためウイルス学者や政治家は警戒を解いていない。

RKIのロタール・ヴィーラー所長は18日、イエン・シュパーン保健相との共同記者会見で、ドイツにおける新型コロナ新規感染の主流が今秋までに現在のアルファ型変異株(英国株)からデルタ株に移行するとの見通しを示した。シュパーン保健相はデルタ型がドイツの主流になるのは時間の問題だと断言。ワクチン接種率が高水準に達するとともに、新規感染者数が少ないという状況下で同株が主流になることが望ましいシナリオだと述べた。

アルファ株は従来株に比べ感染力が高いことから、ドイツで主流を占めるようになった。デルタ株はアルファ株のさらに1.5倍の感染力を持つことから、発生したインドだけでなく英国でも主流となっている。研究者はドイツでも数カ月以内に主流になるとみている。

RKIが16日に発表した変異株に関するレポートによると、同国の新規感染に占めるデルタ株の割合は5月31日~6月6日の週(2021年第22週)に6%となり、アルファ株の86%を大きく下回った。ただ、第20週は3%、第21週は4%と増加傾向にある。

サッカー欧州選手権が懸念材料に

英国では新型コロナの感染拡大を防ぐための規制が5月に緩和された。新規感染者数が減るとともに、ワクチンの接種がある程度、進んだためだ。だが、6月に入ると感染者数が再び急増。7日間の発生数数は現在99人で、ドイツの12倍に上っている。

背景には英国で承認されたワクチンのうちジョンソン・エンド・ジョンソンの製品を除く3製品は2回の接種が必要という事情がある。これら3製品は1回の接種でもある程度の効果があるものの、感染を防ぐには十分でない。2回目の接種を終え高い免疫力を獲得した人が多くない時点で規制を緩和したことから、感染力の高いデルタ株が急速に広がっている。

ヴィーラー所長はこれを踏まえ、規制緩和を急ぎ過ぎると接種を完了していない市民を中心に感染が再び急拡大すると警鐘を鳴らした。

同所長は5月上旬、アルファ株の流行を受け、60~70%の人が感染・接種を通して免疫を獲得すれば、集団免疫が形成されるとした従来の見方を同80%へと引き上げた。研究者の間からは、アルファ株より感染力の高いデルタ株が主流になると同85%が必要になるとの見方が出ている。ワクチン接種を拒否する人がいることや12歳未満は接種を受けられないことを踏まえると、接種を通して集団免疫を獲得することは実質的に不可能とみられる。

欧州では現在、欧州サッカー選手権が11カ国の11会場で行われている。7月11日の決勝は英ロンドンで開催されることから、これを起点にデルタ株が欧州全域に急拡大する懸念がある。シュパーン保健相は20日のテレビ番組で、「英国からの帰国者は全員、2週間の隔離を義務付けられる」と述べるとともに、決勝の現地観戦を見合わせるようサッカーファンに呼びかけた。

デルタ株が流行すると、景気回復の鈍化は避けられない見通しで、Ifo経済研究所のクレメンス・フュスト所長はニュースサイト「t-オンライン」のインタビューで、「デルタ株はドイツ経済にとって真剣に受け止めるべきリスクだ」と明言した。すでに大きな痛手を受けている旅行、飲食、流通業界が特に強い打撃を受けるとしている。