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2021/7/21

総合 - ドイツ経済ニュース

メルケル首相が米大統領と会談、温暖化対策や安全保障で協調合意

この記事の要約

ドイツのアンゲラ・メルケル首相は15日、ホワイトハウスで米ジョー・バイデン大統領と会談した。訪米して同大統領と会談する欧州首脳はメルケル首相が初めて。トランプ前大統領時代に悪化した欧米関係の修復・再強化を最大の目的として […]

ドイツのアンゲラ・メルケル首相は15日、ホワイトハウスで米ジョー・バイデン大統領と会談した。訪米して同大統領と会談する欧州首脳はメルケル首相が初めて。トランプ前大統領時代に悪化した欧米関係の修復・再強化を最大の目的としており、両首脳は価値の共有を強調するなど協調姿勢を強く打ち出した。

「米国第一」を打ち出したトランプ前大統領は経済や安全保障の分野で欧州に強い圧力をかけた。特に、経済が好調で巨額の経常黒字も計上するドイツには敵意を隠さなかった。地球温暖化防止政策、民主主義などの基本的価値観の面でも隔たりが目立ったことから、両国関係は政治レベルでも市民意識のレベルでも大幅に悪化した。

バイデン大統領は友好国との関係改善を外交の柱に据えており、温暖化対策の国際的な枠組みであるパリ協定への復帰を就任直後に表明。北大西洋条約機構(NATO)加盟国の防衛費負担をめぐって悪化した同盟国との関係修復にも乗り出した。

ドイツもこの好機を捉えて対米関係を再構築する意向だ。メルケル首相は「我々を一つに結び付けているのは共通の価値と、現代の課題を克服する意思だ」と述べ、価値の共有をベースに温暖化・新型コロナウイルス対策や世界の平和・安全保障の実現に共同で取り組み意向を表明した。

これらの課題に共同で取り組むため、両国は「ワシントン声明」という文書を発表した。そのなかで大きな比重を占めているのは安全保障だ。名指しはしていないものの、中国とロシアを念頭に置いている。

「開かれた社会を守る義務」と銘打った項目には、「全世界の自由な貨物輸送に依存する両国(独米)は、国際法に合致する航海と上空飛行の自由、合法的なその他の海洋利用が決定的に重要な意味を持つことを確認する」との一文が盛り込まれている。これは常設仲裁裁判所の判決を無視して南シナ海の実効支配を進める中国を念頭に置いたものだ。インド太平洋地域の安定は米国だけでなく、ドイツにとっても経済上、重要な意味を持っており、人工島を造設して軍事拠点化する中国の取り組みは大きな懸念材料となっている。

ただ、中国は最も重要な貿易相手国の1つであるうえ、自動車、電機、化学など幅広い分野のドイツ企業が多数、進出していることから、中国が世界経済から分断される「デカップリング」は国益に反する。メルケル首相はこれを念頭に、ドイツの戦略が米国の戦略と全面的に一致することはないと明言。米国が中国との対決姿勢を強めた場合、政策を調整することはあっても追従はしない意向を明らかにした。

独米両国はロシア産天然ガスをドイツに直接、輸送する2本目のパイプライン「ノルドストリーム2」の建設をめぐっても立場が一致していない。

ウクライナのグリーン水素生産を促進か

米国はノルドストリームをロシアの地政学的な戦略に基づくパイプラインと位置づけており、米政府はこれまで、ノルドストリーム2建設計画の中止を強く求めてきた。ただ、独政府が拒否し続けていることから、バイデン大統領は両国関係の修復を重視する立場から容認へと転換。代わりに、ノルドストリーム2が開通するとロシア産天然ガスのトランジット料金収入が入らなくなるとするウクライナ政府の懸念の解消策を検討するようドイツに要求している。ウクライナはロシア産天然ガスのトランジットで年20億ドルの収入を得ており、ドイツはその穴埋めとなる政策を求められているのだ。

『フランクフルター・アルゲマイネ』紙によると、独政府はウクライナが持つガスパイプラインをグリーン水素の輸送に転用することを検討している。欧州最大の国土を持つウクライナに風力・太陽光発電施設を大量に設置。その電力でグリーン水素を製造し、欧州各国に輸出できるようにする考えだ。欧州連合(EU)は長期的に、化石燃料の使用を廃止し温室効果ガスの排出をゼロにする方針のため、グリーン水素の生産支援はウクライナにとってもメリットが大きいとみられる。

独米首脳は今回、エネルギーの脱炭素化に向け技術開発や途上国支援で協力することでも合意した。経済の主要問題について協議する場も設ける。