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2021/9/29

総合 - ドイツ経済ニュース

国政選挙で社民が19年ぶり首位奪回、連立のカギは緑の党と自民の手に

この記事の要約

ドイツ連邦議会(下院)選挙が26日行われ、即日開票の結果、中道左派の与党・社会民主党(SPD)が連立先のキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)を破り、得票率と議席数で首位を獲得した。SPDが国政選挙で第一党となるのは […]

ドイツ連邦議会(下院)選挙が26日行われ、即日開票の結果、中道左派の与党・社会民主党(SPD)が連立先のキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)を破り、得票率と議席数で首位を獲得した。SPDが国政選挙で第一党となるのは2002年以来で19年ぶり。ただ、両党の議席数は差が小さく、連立交渉の結果次第ではともに首相を輩出できる状況にある。連立先の候補である緑の党と自由民主党(FDP)がキャスティングボートを握ることになる。

今回の選挙は、内政と国際政治の舞台で16年に渡り大きな役割を果たしてきたアンゲラ・メルケル首相(CDU)が引退を表明していることから、誰が後継者になるかが大きな焦点となった。首相候補を擁立したのはCDU/CSUとSPD、および前回選挙に比べ支持率が大幅に高まった緑の党の3党。選挙戦では当初、緑の党がリードしていたが、同党のアンナレーナ・ベアボック首相候補の経歴詐称や副収入報告の提出遅延が響いて人気が急落し、CDU/CSUがトップを奪還した。だが、CDU/CSUもアーミン・ラシェット首相候補が洪水被害の視察時に付き人と不謹慎な馬鹿笑いをしたことをきっかけに人気が底に落ちた。SPDは漁夫の利を得る形で首位に躍り出、逃げ切った格好だ。

各党の得票率をみると、SPDは25.7%となり、17年の前回選挙から5.2ポイント上昇。CDU/CSUは8.9ポイント減の24.1%となり、過去最低を更新した。増加幅が最も大きかったのは緑の党で、5.9ポイント増の14.8%となり、これまでの最高を記録した。FDPも0.8ポイント増の11.5%と好調で、2回連続で2ケタ台を獲得した。

極右の「ドイツのための選択肢(AfD)」は2.3ポイント減の10.3%と振るわなかった。前回と異なり難民問題が追い風とならなかったことが響いた。党の路線を巡る内部対立も足かせとなった。急進左派の左翼党は9.2%から4.9%へと4.3ポイントも低下した。

大勝したSPDと緑の党には前回選挙でCDU/CSUないし左翼党に投票した有権者の票が特に多く流れ込んだ。

各党の得票率を年齢層別でみると、2大政党のSPDとCDU/CSUは45歳以上で数値が高い。特に60歳以上ではそれぞれ35%、34%に達している。一方、44歳以下では得票率が低く、若年層の支持率を高めないと将来的に先細りする懸念がある。緑の党とFDPは若年層で人気が高く、緑の党は30歳未満に限ると得票率で1位となった。

対立点の止揚策など工夫が必要に

各党の獲得議席数はSPDが206、CDU/CSUが196、緑の党が118、FDPが92、AfDが83、左翼党が39、デンマーク系少数民族政党のSSWが1。合計は735で、過半数ラインは368となる。

次期政権に参加する可能性があるのはSPD、CDU/CSU、緑の党、FDPの4党だ。具体的な組み合わせとしては、(1)SPDと緑の党、FDPの3党からなる「信号政権(3党のシンボルカラー赤緑黄にちなむ)」(2)CDU/CSUとFDP、緑の党の3党からなる「ジャマイカ政権(各党のシンボルカラー黒黄緑を合わせるとジャマイカ国旗と同じ配色になることにちなむ)」(3)SPDとCDU/CSUの大連立政権――の3つが考えられる。

このうち(1)は、SPDと緑の党が「大きな政府」を目指すのに対し、FDPは「小さな政府」を志向していることから、政策の溝が深い。(2)では温暖化防止目標の実現に向けて増税や財政規律の緩和を求める緑の党の要求が、税負担の増加などに否定的なCDU/CSU、FDPと相いれない。信号政権ないしジャマイカ政権を実現するためには優先度の低い分野で譲歩することや、対立点を止揚する解決策の提案が必要となる。

大連立の場合はこれまでジュニアパートナーだったSPDが首相を輩出するシニアパートナーへと浮上する形で現政権の枠組みが継続されることになる。SPD、CDU/CSU間の政策調整が比較的容易という意味では実現のハードルが低い。だが、同国ではこれまで大連立が長く続いてきたことから、国民の間には政権枠組みの変化を求める声が強い。両党もそれぞれの個性が希薄化して地盤沈下につながりかねない連立関係を解消したいというのが本音だ。

このためSPDは信号政権、CDU/CSUはジャマイカ政権の実現を目指している。いずれにしても緑の党とFDPをともに自陣営に引き込む必要があることから、駆け引きが複雑化し、政権樹立の遅れにつながる可能性がある。SPD、緑の党に左翼党を踏まえた左派3党からなる政権は過半数に達しないことから実現の可能性が消えた。信号、ジャマイカ政権の可能性が潰えると大連立を継続する以外に選択肢がなくなる。

同日はベルリン州とメクレンブルク・フォーポマーン州でも州議会選挙が行われた。SPDは両州で第一党の地位を保持。緑の党とFDPは得票率を伸ばした。