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2022/3/2

総合 - ドイツ経済ニュース

制裁の影響鮮明に、露事業凍結の企業相次ぐ

この記事の要約

ロシアは2月24日、ウクライナへの軍事侵攻を開始した。これを受けウクライナの経済活動は大幅に鈍化。欧米や日本は強力な対露制裁を発動し、これに反発するロシアも報復措置を打ち出している。戦争と制裁合戦の今後の展開と、経済活動 […]

ロシアは2月24日、ウクライナへの軍事侵攻を開始した。これを受けウクライナの経済活動は大幅に鈍化。欧米や日本は強力な対露制裁を発動し、これに反発するロシアも報復措置を打ち出している。戦争と制裁合戦の今後の展開と、経済活動全体および細部への影響は読みにくく、先行き不透明感がにわかに強まっている。サプライチェーンのひっ迫で遅れているコロナ禍からの景気回復は一段と鈍化したり脅かされる恐れがある。

ロシアの侵攻後、ウクライナでは多くの企業が従業員の安全を確保するため、事業を停止した。その影響で自動車大手のフォルクスワーゲン(VW)では同国からのワイヤハーネスなどの供給が停止。独東部のツウィッカウ、ドレスデン工場で 28日から 4日間、操業を停止する。

物流面でも支障が大きい。黒海ではロシア艦隊が軍事作戦を実施しており、民間の船舶が通行するのは危険だ。貨物船が被弾したとの情報もある。オデッサ湾はすでに閉鎖された。陸路の輸送も運転手の安全確保が保証できないことから難しい。独物流業界団体は戦争が始まった時点でウクライナでの輸送回避を会員企業に勧告した。

対露制裁の影響もすでに鮮明になっている。商用車大手の独ダイムラー・トラックは28日、ロシア同業カマズとの提携事業をすべて凍結すると発表した。カマズは軍用トラックも手がけており、ダイムラー・トラックはロシアの侵攻後、市場や世論の強い圧力を受けていた。合弁会社での生産と部品供給を停止する。スウェーデン同業のボルボもロシアでの生産・販売を凍結した。

自動車部品大手のZFフリードリヒスハーフェンは同日、カマズとの現地合弁ZFカマを含めロシアへの供給を全面停止することを明らかにした。広報担当者は国際的な制裁措置の実行状況を危機対策本部で分析しているとしたうえで、これとは別にカマズとの協業はもはや適切ではなくなったとの見解を示した。

同社は週末の26日時点では、カマズと共同生産するトランスミッションの搭載が認められるのは契約上、民生の商用車に制限されているとして、合弁生産の継続に問題はないとしていた。週明けの28日に方針を大きく転換した背景には、欧州連合(EU)や米国がロシアに対する追加制裁で同国の大手銀行などを国際的な決済網「国際銀行間通信協会(SWIFT)」から排除することを決定したほか、ロシアへの大規模な抗議活動が週末に全世界で繰り広げられるなど国際的な圧力が大幅に高まったことがある。

多くの企業はこうした変化を受けてロシア事業の凍結を28日に発表した。キール大学のボルガー・ゲルク教授は『フランクフルター・アルゲマイネ』紙に、「このような規模・スピードの投資撤退を経験したことはこれまでなかった」と述べたうえで、これは「市場主導の制裁だ」と指摘。競合企業とサプライヤーのロシア撤退を見て追随のドミノ効果が起こり、国家による制裁よりも甚大な影響をもたらす可能性があるとの見方を示した。企業の社会的責任(CSR)に配慮した持続可能な経営を行っているかどうかで投資先を選別する社会的責任投資(SRI)の動きが強まっていることが大きい。

ガス管NS2の運営会社は全社員を解雇

対露制裁の対象企業には国有企業ロシア鉄道が含まれている。ウクライナ侵攻を輸送面で支援しているためだ。制裁の影響は現時点で明らかでないが、中国と欧州を結ぶ鉄道貨物輸送にしわ寄せが出る可能性もある。

制裁の影響はロシア産天然ガスをバルト海経由で輸送する2本目のパイプライン「ノルドストリーム2」にも出てきた。スイスのギー・パルムラン経済相が28日のテレビ番組で明らかにしたところによると、同国に本社を置く同パイプラインの運営会社ノルドストリーム2(NS2AG)は140人の社員全員を解雇した。ロイター通信は消息筋の情報として、今週中にも会社更生手続きの適用を申請すると報じている。ドイツ政府が認可手続きを凍結したうえ、米政府もNS2AGに制裁を課して同社との取引を禁止したことを受けた措置とみられる。パイプライン稼働開始のメドが全く立たなくなっている。

露空域閉鎖で貨物機は積み荷削減

ロシアは欧米の制裁に対し同国の空域を閉鎖した。計36カ国の航空会社が影響を受けている。ロシア上空を回避しなければならず、欧州フラッグキャリアの多くは旅客機の運航を一時停止。新たなルートの利用を検討している。独ルフトハンザは日本など極東向けの便を南回りに改める意向だ。

貨物機は積み荷の削減を余儀なくされている。航続距離を伸ばさなければならないためで、ルフトハンザの貨物子会社ルフトハンザ・カーゴは積み荷を最大20%減らしたことを明らかにした。それでも給油のための中継地利用が増えることから、輸送時間は伸びることになる。燃料の消費量が増加するうえ、価格も高騰していることから、運賃の上昇は避けられない見通しだ。

ロシアからの天然ガスや石油の輸送は現在も行われている。ただ、先行きが不透明なことから価格は大きく上昇している。

この冬は暖冬だったため、懸念されていた天然ガスの国内貯蔵が底をつく事態は回避される見通し。政府はLNG(液化天然ガス)の輸入を増やすほか、貯蔵事業者に備蓄を義務付ける法案を成立させる意向のため、ロシアからの輸入が仮に止まったとしても、来冬分の供給も確保できるとみられている。

ただ、LNGは冷却と船舶での輸送が必要なことから、パイプラインで直接、供給を受ける非加工の天然ガスに比べ割高だ。化石燃料の価格が全般的に高騰していることもあり、インフレ率のさらなる上昇は避けられない。今年は昨年の3.2%(EU基準)から5~6%台に拡大すると目されている。

独空域・陸路の民間利用制限も

対露制裁およびこれに対するロシアの報復で重要資源の確保が難しくなることも懸念されている。アルミニウムや排ガス浄化に用いるパラジウム、航空機エンジンなどに用いるチタンなどでロシアは高い市場シェアを持っているためだ。チタンは露VSMPOアヴィスマが約30%のシェアを持っているうえ、特殊なチタン製品では市場支配的な地位を保っていることから、供給が仮に長期停止された場合は航空機業界に大きな影響が出る。

台湾と韓国の半導体業界は半導体の生産に必要なレアガスの供給が不足することを心配している。ロシアとウクライナからレアガスを多く輸入しているためだ。レアガスの一種であるネオンではウクライナが70%の市場シェアを持つ。世界の半導体不足が一段と悪化する恐れがある。

ロシアのサイバー攻撃に対する警戒も強い。例えば電力インフラが標的となり、大規模な停電(ブラックアウト)が起こる可能性がある。個々のメーカーが被害を受ければ、サプライチェーン全体に影響が及ぶ恐れもある。

北大西洋条約機構(NATO)は東欧加盟国の防衛を強化するため、警戒態勢を強めている。ドイツ政府は国防軍の移動キャパシティを確保するために空域、陸路、水路の民間利用を制限する可能性があり、物流への影響が予想される。