化石燃料資源の確保でドイツが難しいかじ取りを強いられている。政府はロシアへの依存度引き下げに向けてにわかに動き始めたものの、調達先の多様化など政策の抜本的な効果が出るのは少なくとも数年先となることから、当面は急場しのぎの対策が必要だ。ロシアからのエネルギー資源供給は可能な限り維持したいと考えている。折しもウクライナや東欧の欧州連合(EU)加盟国、米国からはウクライナに軍事侵攻したロシアを資金的に枯渇させるためにロシアからの石油、天然ガス輸入を禁止すべきだとの声が出ており、ドイツに対する風当たりは厳しい。
ドイツは天然ガスの輸入の55%をロシアに依存している。輸入先2位はノルウェーで30%、3位はオランダで13%。これら3国からはパイプラインを通して非加工の天然ガスを輸入している。ロシアからの供給は石油と石炭でも多い。
オランダは天然ガス採掘に伴う地震の発生を受けて2020年代前半にも採掘を停止する。ドイツがロシア依存を引き下げるためにはノルウェーからの輸入を増やすだけでは足りず、LNG(液化天然ガス)をタンカーで輸入する必要がある。
オーラフ・ショルツ首相はこの事情を踏まえ2月末、独北部のヴィルヘルムスハーフェン港とブルンスビュッテル港で計画されているLNGターミナルの設置を速やかに実現する意向を表明した。同国にはこれまでLNGターミナルがなかった。
普段は鈍足のドイツの政治も緊急時には動きが速く、連邦経済・気候省は5日、政策金融機関のドイツ復興金融公庫(KfW)と蘭天然ガス大手ガスニー、独エネルギー大手RWEがブルンスビュッテルにLNGターミナルを設置することで基本合意したと発表した。再ガス化容量が年80億立法メートルのターミナルを建設する。出資比率はKfWが50%、ガスニーが40%、RWEが10%。将来的にはグリーン水素と、アンモニアなど水素化合物のターミナルとして活用する意向だ。
ヴィルヘルムスハーフェンでも地元ニーダーザクセン州がLNGターミナル建設プロジェクト実現に向け動き始めた。両ターミナルで同国のガス需要(年950億立方メートル)の最大20%を賄うことができる。欧州の他の国にあるターミナル経由で輸入する分も含めれば、LNGの輸入量は大幅に増える見通しだ。
ニーダーザクセン州のシュテファン・ヴァイル首相によると、LNGの輸入増で相殺できるのはロシアからの輸入総量の3分の2にとどまる。このため独政府は天然ガスの国内消費を削減する意向だ。7日付『フランクフルター・アルゲマイネ』紙によると、経済・気候省は「ガス削減緊急プロジェクトグループ」という名のタスクフォースを設置。ガス暖房の新設を25年から禁止するほか、ソーラー発電設備の設置を新築建造物に義務付けることを検討している。
与党の政権協定には、ソーラー発電設備の設置を業務用の新築建造物で全面義務化し、新築住宅でも原則義務化することが盛り込まれている。経済・気候省は新築住宅について同義務免除の例外を当初計画よりも大幅に減らす方向という。
来冬にガス配給制導入も
これらの措置が効果を発揮するのは数年先となる。ヴィルヘルムスハーフェンとブルンスビュッテルのLNGターミナル完成もそれぞれ2年後、3年~3年半後と見込まれている。それまでの期間はロシア産天然ガスに依然せざるを得ないというのがドイツ政府の立場だ。
米アントニー・ブリンケン国務長官は6日、ロシア産石油の禁輸を欧州の同盟国と協議していると発言した。ショルツ首相はこれを受け7日に声明を発表。ロシアからのエネルギー供給が止まれば欧州の市民生活、経済活動に甚大な影響が出るとして反対の意向を表明した。「われわれの(制裁)措置はすべて、ロシアに打撃を与え、かつ持続的に貫徹できるよう設計されている。ロシアからのエネルギー供給を欧州は意識的に制裁対象から外している」と強調した。メディア報道によると、EUが現在準備している新たな対露制裁には石油禁輸措置が含まれていないという。ロシアへのエネルギー依存度が高いドイツとイタリアが強く反対しているもようだ。
ロシアの原油・石油製品輸出高は昨年およそ1,800億ドル、天然ガスは同600億ドルに上った。同国は財政の3分の1を石油と天然ガスの輸出で賄っていることから、欧米が禁輸措置を取れば大きな痛手を受ける。
ただ、ドイツなど欧州諸国にとっても打撃は大きいことから、独産業連盟(BDI)のジーグフリート・ルスヴルム会長は、ロシア産エネルギーの禁輸論議は「火遊びだ」と批判。仮に実施されれば産業のバリューチェーン、サプライチェーンに劇的な影響をもたらすと警告した。
ロシア産天然ガスの輸入が大幅に減ったり完全に停止されると、ドイツでは早ければ来秋にも深刻な供給不足が発生する見通しだ。市場調査大手ICISのアナリストは公共放送ARDのニュース番組で、ロシア産天然ガスを短期間で他の国からの輸入で代替することはできないと指摘。来冬には政府が緊急の配給措置を導入する可能性を排除できないと述べた。一般世帯や病院への供給が優先され、製造業は後回しにされるという。
ロシアのアレクサンドル・ノヴァク副首相は欧米の禁輸論議を受け7日、エネルギーの禁輸制裁を受けた場合は欧州向けの天然ガスパイプライン「ノルドストリーム1(NS1)」の稼働を停止する考えを示唆した。欧州需要(5,000億立方メートル)の40%がロシア産で賄われていることを指摘。NS1だけで同需要の12%に当たる600億立方メートルに達しており、稼働停止で欧州が受ける影響は大きいとけん制した。ただ、「わが国はこの決定を現時点で下していない。誰も勝者にはならない」とも述べており、ロシア政府はこの選択肢をできれば回避したいもようだ。