監査法人大手アーンスト・アンド・ヤング(EY)が22日発表したレポートによると、中国企業(香港を含む)が2021年に欧州で実施した買収・出資(今年2月12日時点で買収・出資手続きが未終了の案件を含む)は計155件となり、前年の132件から17%増加した。増加は5年ぶり。比較対象の20年は新型コロナウイルスの世界的な流行の初年度に当たり、買収・出資活動が急減速。21年はその反動で拡大した。M&Aの総額は14億9,800万ドルから8倍強の124億2,000万ドルへと伸びた。
中国企業の対欧M&Aは16年にピークに達した。同年の件数は309件、総額は858億2,700万ドルに上る。これに比べると21年の実績は低い。調査担当者はこれについて(1)コロナ禍に伴う旅行や隔離規制が続いていることからM&A交渉が進展しにくい(2)国外企業をすでに買収した中国企業は事業の拡大よりも再編に力を入れている~特に自動車、機械業界~(3)重要インフラへの外資の出資に対する規制が強化された(4)投資会社の資金力が高まり買収価格が高騰しやすくなったことを受け、中国企業が無理な買収を控えるようになった(5)米国の買収審査を中国企業は警戒している――を挙げた。
(4)は特に上場企業に当てはまる。割高な買収を行うと株価が低迷するためだ。
(5)に関しては潜在的な欧州の買収対象候補は米国に生産や研究開発拠点を持つことが多いという事情がある。中国に対する米国政府の警戒感が高いことから、買収合意が成立しても、対米外国投資委員会(CFIUS)が拒否権を行使するリスクがある。
中国企業の21年の対独M&A件数は35件となり、前年の28件から25%増加した。M&Aの総額も3億7,600万ドルから5.4倍の20億4,000万ドルへと増えている。
中国企業による対欧州M&Aを国別でみると、件数が最も多かったのは英国で36件(前年21件)に上った。ドイツは35件に増えたものの、1位から2位に転落している。3位はオランダで13件(3件)、4位はフランスで12件(17件)となっている。
対欧M&Aの額ではオランダが45億400万ドルに達し、断トツの1位となった。ヘルスケア大手フィリップスの家電事業を中国の投資ファンド、ヒルハウス・キャピタルが43億7,000万ドルで買収したことから水準が大幅に押し上げられた。2位以下は英国(22億400万ドル)、ドイツ(20億400万ドル)、デンマーク(10億8,400万ドル)、スペイン(10億3,200万ドル)の順で続く。
組立分野で対独は断トツ1位
中国企業の対欧M&Aの内訳を分野別でみると、件数が最も多かったのは機械などの組立で、30件(前年36件)を占めた。これにハイテク/ソフトウエアが27件(同20件)、ヘルスケアが26件(16件)、金融が19件(13件)、メディア・娯楽が13件(7件)、素材が11件(7件)、エネルギー・電力が8件(5件)、小売が7件(3件)、消費財・サービスが6件(22件)続いた。
組立分野の対欧M&Aではドイツがダントツの1位で、30件中12件を占めた。2位オランダは4件、3位イタリアは3件にとどまった。
ハイテク/ソフトウエアでは英国が8件と最も多く、これにドイツとフランスがそれぞれ5件で続いた。ヘルスケアでは1位の英国が7件、2位ドイツが5件、3位スイスが3件となっている。金融は英国とドイツが各5件で首位を分け合い、3位はスイス(2件)だった。
中国企業の対欧M&Aの個別案件をみると、額が最も大きかったのはヒルハウス・キャピタルによるフィリップスの家電事業買収だった。2位はIT大手テンセントによる英国のビデオゲーム開発会社スモウの買収(11億1,500万ドル)、3位は中国国際海運集装箱集団(CIMC)によるデンマーク同業マースク・コンテナ・インダストリー(MCI)の買収(10億8,400万ドル)となっている。