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2022/4/13

総合 - ドイツ経済ニュース

再生エネ拡大加速へ、エネルギー安保もにらみ法案を閣議了承

この記事の要約

ドイツ政府は6日の閣議で、再生可能エネルギーの拡大加速に向けた一括法案を了承した。同法案はもともと炭素中立目標の実現に向けて作成されたものだが、ウクライナ戦争の勃発でロシア産化石燃料への高依存が持つリスクが露呈したことを […]

ドイツ政府は6日の閣議で、再生可能エネルギーの拡大加速に向けた一括法案を了承した。同法案はもともと炭素中立目標の実現に向けて作成されたものだが、ウクライナ戦争の勃発でロシア産化石燃料への高依存が持つリスクが露呈したことを受け、エネルギー安全保障上の意義もにわかに強まっている。法案には「再生可能エネルギーの拡大の大幅な加速は同時に、エネルギー輸入への依存を極めて迅速に低減することも可能にする」との一文が盛り込まれた。

ドイツではメルケル氏を首班とする前政権が昨年、炭素中立実現を従来目標の2050年から45年に前倒しするとともに、30年の二酸化炭素(CO2)中間削減目標を従来の1990年比55%から同65%に引き上げる法案を作成し、議会で成立させた。現政権はこれについて1月、現状では目標を達成できないとして、炭素中立実現に向けた取り組みの強化方針を打ち出した。CO2排出削減のスピードを3倍に加速するほか、国内発電に占める再生エネの割合を30年までに現在の42%から約2倍の80%へと引き上げる。35年までには同比率をほぼ100%とする目標だ。今春と今夏の2回に分けて法案を作成して議会で可決させ、目標実現の道筋をつける計画。

今回の閣議で了承された法案はその第1弾で、「オースターパケート(イースター一括法案)」と呼ばれている。再生エネ比率を約2倍に引き上げるために、30年の再生エネ発電量を21年の233テラワット時(TWh)から2.5倍の約600TWhへと引き上げる。化石燃料を電力に置き替える動きが進み、交通、産業、世帯の電力消費量が大幅に増えることを念頭に置いている。

30年の陸上風力発電容量は20年の54ギガワット(GW)から2倍強の115GWへと引き上げる。これを実現するため、25年以降の新設容量を年10GWとし、21年の2GWから5倍に拡大する。

洋上風力発電の容量も20年の7.8GWから30GWへと引き上げる。昨年は同発電の新規稼働がまったくなかったことから、調査未終了の海域であっても発電パーク建設に向けた入札を実施できるようにし、新設を加速させる。

太陽光発電の新設容量は26年以降、年22GWとし、21年実績(5GW強)の4倍に拡大。30年の国内発電容量で215GWを実現する。

再生エネの拡大と並行して送電網の整備も進める。計19件の新設プロジェクトを進めるとともに、既存のプロジェクト17件で変更を加える。

プロジェクト手続きを標準化

風力発電や送電網設置プロジェクトでは州によって異なる生物種の保護規定や住民・環境団体の反対運動が実現の大きなネックとなるケースが多い。政府はこれを踏まえ、再生エネのプロジェクトを優先度の高い公共の利益と法律で位置づけるとともに、プロジェクトに絡む手続きを全国で標準化することで、発電部門の炭素中立化を加速させる考えだ。「(在来型エネから再生エネへの)エネルギー転換と生物種の保護との背反を解決する」としている。

風力発電の新設には近年、急ブレーキがかかっている。今年1-3月期に認可された新設規模は204基となり、前年同期比で14%減少。発電容量ベースでも8%落ち込んだ。新規稼働数は93基で、29%後退している。ロベルト・ハーベック経済・気候相は新設規模がピーク時の年5GWから現在は1GWに落ち込んでいることを指摘し、状況改善に意欲を示した。

具体的には、新設予定の風力発電設備に鳥類が衝突するリスクがどの程度あるのかの評価方法を国の自然保護法で定め、全国統一の標準化された評価システムを構築する。同法には衝突リスクの高い鳥の種類も盛り込む意向だ。

風力発電設備の設置に対しては景観が破壊されるという理由で反対する市民も多いが、政府は風力発電用地の割合が2%未満の州では景観保護地区でも同設備を建設できるようにする意向だ。これについては今後、各州と協議し、次回の夏季法案に盛り込むことを目指している。

風力・太陽光発電施設の受容度を引き上げるため、今回の法案には再生エネのプロジェクトに地元の市民や自治体が簡単に参加できるようにすることも盛り込まれた。また、これまで電力料金に上乗せされてきた再生エネ助成分担金は廃止され、助成財源は全額、税金へと切り替えられる。