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2022/6/29

総合 - ドイツ経済ニュース

天然ガス不足の警戒レベル引き上げ、消費抑制をメーカーや消費者に要請

この記事の要約

ドイツ政府は23日、天然ガスの国内供給不足に対応するための警戒レベルを引き上げた。ロシア産の供給が大幅に減ったことを受けた措置で、警戒レベルをこれまでの「早期警戒」から「警戒」へと引き上げた。ロベルト・ハーベック経済・気 […]

ドイツ政府は23日、天然ガスの国内供給不足に対応するための警戒レベルを引き上げた。ロシア産の供給が大幅に減ったことを受けた措置で、警戒レベルをこれまでの「早期警戒」から「警戒」へと引き上げた。ロベルト・ハーベック経済・気候相は「ガスは今現在から品不足の財となる。価格は現在すでに高く、今後さらに上昇することを我々は覚悟しなければならない」と述べ、メーカーや消費者などすべての需要家に可能な限り消費量を減らすよう呼びかけた。

ドイツには欧州連合(EU)の「天然ガスの安定供給確保に関する規則」に基づく天然ガス供給の警戒システムがある。同システムは3段階からなり、第1段階の早期警戒はロシアが「非友好国」の企業に天然ガスのルーブル決済を義務付ける方針を打ち出したことを受け、3月末に発令された。

早期警戒はガス供給が大幅に悪化する可能性が高い場合に発令される。また、警戒は供給状況が大幅に悪化した場合に発令される。ただ、この段階では市場メカニズムを通して問題に対処することから、国家は介入しない。

警戒では対処しきれない場合は最高レベルの「緊急」段階へと引き上げられ、国がガス市場に介入。所轄官庁の連邦ネットワーク庁が配給を実施し、まずは産業向けの供給量が制限されることになる。

ロシア国営天然ガス会社ガスプロムは今月中旬、パイプライン「ノルドストリーム1」を通した欧州向けのガス供給量を大幅に減らした。1日当たりの供給量を容量(1億6,700万立方メートル)の40%に当たる6,700万立方メートルに制限している。技術的な問題を削減の理由としているものの、対露制裁への報復の可能性が高く、ハーベック氏は「プーチン(大統領)の経済的な攻撃だ」と批判した。

ノルドストリーム1の供給量が現在の水準にとどまると、ドイツはガス需要が大幅に増える冬季に向けて進めている備蓄の目標を達成できなくなることから、警戒を発令した。

警戒が発令されると、ガス会社は調達価格の高騰分を都市エネルギー公社や大手メーカーなどの顧客に転嫁できるようになる。だが、政府は「価格調整メカニズム」と呼ばれるこのルールの導入を差し当たり見合わせる意向だ。ハーベック氏は、エネルギー供給の崩壊を回避するためには同メカニズムが一定の状況下で必要になるとしながらも、価格が一段と高騰するなど副作用が大きいと指摘。同メカニズムの代替策を検討していることを明らかにした。

家庭の年負担1万ユーロ超も

ガス会社は通常、調達価格が高騰してもこれを顧客に速やかに転嫁することはできない。一定期間内は値上げできないことが普通取引約款で定められているためで、値上げは同期間の終了後に行われることになる。調達価格の高騰分を川下に転嫁できない状態が続いていることから、ガス会社の資金繰りや財務は現在、厳しい状況にある。

欧州の天然ガス価格の指標である蘭TTFの先物価格は1年前、1メガワット時(MWh)当たり21ユーロだった。ロシアのウクライナ侵攻を受け3月上旬にはこれが207ユーロへと上昇。その後はある程度、低下したものの、ノルドストリーム1の輸送減を受けて再び急騰しており、今月23日には133ユーロを記録した。

ノルドストリーム1はメンテナンスを理由に7月11日から稼働が全面停止される。期間は2週間と予告されているものの、欧州への圧力を高めるためロシアが意図的に再稼働を見合わせる可能性は排除できない。

そうなるとガス価格のさらなる高騰は避けられず、調達会社の経営破綻を回避するため、国は価格調整メカニズムの導入に踏み切る可能性がある。同メカニズムが発効すると、ガス会社は予告後1週間で値上げを行うことができるようになる。

その影響は甚大だ。独商業会議所連合会(DIHK)はエネルギーコストの急上昇で多くの企業が倒産すると警告した。

消費者向けのガス料金も急騰する。価格比較サイトチェック24によると、年消費量2万キロワット時(kWh)の標準世帯の6月の料金は1kWh当たり平均13.8セントで、前年同月を113%上回った。年額は2,752ユーロに上る。ロシアからの供給が完全に停止すると料金はさらに2倍、あるいは4倍に膨らむと専門家は指摘する。4倍であれば年額は1万ユーロを超えることから、中間層でも負担はかなり重い。

国内住宅の約50%はガス暖房を利用しており、光熱費高騰の直撃を受ける世帯は多い。暖房の使用を見合わせざるを得ない人が多数、出てくる恐れがある。