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2022/7/6

総合 - ドイツ経済ニュース

ガス会社に公的支援、ユニパーの資金繰り懸念受け法改正へ

この記事の要約

ドイツ政府は5日、エネルギー安定確保法(EnSiG)などの改正に向けた法案の起草支援を了承した。天然ガスの供給不足と価格高騰を受けた措置。国外からガスを輸入する企業が経営破綻し、国内供給を維持できなくなる懸念が出てきたこ […]

ドイツ政府は5日、エネルギー安定確保法(EnSiG)などの改正に向けた法案の起草支援を了承した。天然ガスの供給不足と価格高騰を受けた措置。国外からガスを輸入する企業が経営破綻し、国内供給を維持できなくなる懸念が出てきたことから、そうした事態を回避する狙いだ。法案は与党が議会に提出する。メディア報道によると、今週中にも可決される見通し。

独天然ガス輸入最大手ユニパーは6月29日夜、公的支援を受ける方向で政府と協議していると発表した。ロシアからの供給の大幅減を受けて調達コストが大幅に膨らみ、今後の資金繰りに懸念が出てきたため。ガス業界が置かれている厳しい状況が鮮明となった格好で、同社の株価は30日に一時20%以上、落ち込んだ。

ロシア国営ガス会社ガスプロムは今月中旬、ガス管「ノルドストリーム1」の供給量を容量の40%へと削減した。ガスプロム最大の国外顧客であるユニパーはこの結果、契約量の40%しか供給を受けられなくなっている。

同社はドイツ国内の供給を可能な限り安定させるため、ロシア産以外の調達を拡大した。ただ、ガス価格は世界的に高騰していることから、スポット・先物市場で購入するとコストは大幅に膨張。これが同社の財務を圧迫している。公的支援では政策金融機関KfWの融資枠拡大や政府の直接出資など様々な可能性が協議されているもようだ。

同国では23日、天然ガスの国内供給不足に対応するための警戒レベルが従来の「早期警戒」から「警戒」へと引き上げられた。警戒が発令されると、政府は「価格調整メカニズム」と呼ばれる措置を導入できることから、ガス会社は調達価格の高騰分を川下に迅速転嫁することが可能になる。だが、多くの企業・家計が破綻するなど深刻な副作用が懸念されることから、政府は実施を見合わせている。

ガス業界ではすでに週10億ユーロの損失が出ているもようで、業界各社の運転資金は急速に目減りしている。政府・与党はこの状況に対処するため、エネルギー安定確保法を早急に改正する。重要なエネルギーインフラ企業が経営を維持できるよう、支援を行う。国が出資しやすい枠組みを創出する。

ドイツでは新型コロナウイルスの感染拡大で多くの企業が経営危機に陥った際、国は経済安定化基金(WSF)とKfWを通して資本参加や融資保証などの支援を行った。その効果で、例えば航空大手のルフトハンザは資金繰りを確保。現在はすでに支援を脱却している。

これと同様の措置を、エネルギーインフラ企業を対象に実施しやすくする。国がガス会社を底支えすることで、大きなしわ寄せが出る価格調整メカニズムの発動を可能な限り回避することも狙っている。

価格調整メカニズムに関しては、調達価格の上昇分を川下に直接転嫁するこれまでのルールに加え、転嫁分をすべてガス消費者が均等に負担する新たなルールも導入する意向だ。「均等価格調整メカニズム」と命名されたこのルールでは調達価格の上昇分が、ガス料金に上乗せされる分担金を通して負担されることになる。平等な負担を実現できるメリットがある。

ただ、均等価格調整メカニズムでも副作用は大きいことから、政府は現時点で導入を計画していない。

エネルギー集約企業も支援

調整メカニズムが実施されると、エネルギー集約型企業はコスト負担が大幅に膨らみ、経営が難しくなるケースも出てくる。政府はそうした事態を見据え、「エネルギーコスト抑制プログラム」という政策を策定しているもようだ。

『フランクフルター・アルゲマイネ』紙によると、資金繰りが厳しくなった企業に国は月当たり最大625万ユーロの支援を行う。支援総額の上限は5,000万ユーロ。プログラム規模は50億~60億ユーロを想定している。天然ガスと電力の調達で2月から9月末までに追加費用が発生した場合に受給できる。補助金であることから、返済義務はない。支援を受けた企業の役員は変動報酬を受けられなくなる。

同プログラムを実施するためには欧州連合(EU)欧州委員会の審査を受け承認を受ける必要がある。