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2022/7/27

総合 - ドイツ経済ニュース

備蓄強化や廊下などでの暖房禁止へ、ガス輸入最大手ユニパーは半国有化

この記事の要約

ドイツの天然ガス供給状況が一段とひっ迫してきた。主要な供給元であるロシアがメンテナンスを口実に供給量の削減や一時停止を通して揺さぶりをかけているためだ。独政府はこれを受け、国内需給調整の追加策を打ち出した。資金繰りが悪化 […]

ドイツの天然ガス供給状況が一段とひっ迫してきた。主要な供給元であるロシアがメンテナンスを口実に供給量の削減や一時停止を通して揺さぶりをかけているためだ。独政府はこれを受け、国内需給調整の追加策を打ち出した。資金繰りが悪化したガス輸入最大手ユニパーには救済措置を実施する。

独ロベルト・ハーベック経済・気候相は21日、エネルギー供給を安定化するための追加措置を発表した。ロシアによる欧州向け天然ガス供給の削減・停止が長期化する懸念が強まっていることを受けた措置。ドイツはロシア産ガスへの依存度が高いことから、新たな対策を導入する必要が出てきた。

ロシアはバルト海経由のガス管「ノルドストリーム1(NS1)」の供給量を6月中旬に容量の40%へと引き下げた。今月11日にはメンテナンスを理由に輸送を全面停止。21日に再開したものの、供給量はメンテナンス前と同じ40%にとどまっている。27日からは同20%へと引き下げる予定だ。

ロシアは修理のためにカナダに輸送されたタービンが返却されないため、フル稼働できないと主張している。これに対し独政府は、予備のタービンを用いればフル稼働できるとみており、供給量の削減には政治的な意図があると批判。ハーベック氏は「(ロシアの)プーチン(大統領)の狙いは価格を吊り上げ、社会を分断し、ウクライナ支援を弱めることにある」と言い切った。

ロシアは今後も天然ガスを武器に揺さぶりをかけると予想されることから、独政府は同国産の供給が途絶えても冬を乗り切れる体制を構築する意向だ。そのための措置として今回、新たな国内ガス備蓄基準、天然ガス発電の抑制策、ガス消費量の削減策を打ち出した。

天然ガス備蓄制度はロシアのウクライナ進攻を受けて導入された。現行法では貯蔵施設に対し暖房シーズンが始まる10月1日時点で毎年、容量の80%以上、11月1日時点で90%以上の貯蔵が義務付けられている。政府はこれを強化し、10月1日時点で85%、11月1日時点で95%へと引き上げる。また新たに、9月1日時点で75%の確保を義務付ける。

天然ガス発電の抑制に向けてはすでに石炭発電の一時的な利用拡大を決めた。今回はさらに、予備電源となっている褐炭発電所を10月1日から再利用する方針を打ち出した。褐炭は環境負荷が高いものの、政府は国内のエネルギー供給を確保するためあえて活用する意向だ。

公共機関や企業に対しては廊下や玄関、ホールなど利用頻度の低い空間で暖房を原則的に使用しないことを6カ月間、義務付ける。一般世帯に対しても使用しない部屋で暖房を使わないよう要請する。また、カビの発生を防ぐために室温を一定水準以上に保つことを義務付ける賃貸住宅契約の条項に関しては適用を一時的に除外する。

調達コスト上昇分は今秋から転嫁

ドイツ政府は22日、ユニパーを救済すると発表した。国内のエネルギー供給で重要な役割を果たす同社が経営破たんすると経済や社会生活に深刻な影響が出ることから、出資や融資支援を行い底支えする。調達コストの膨張が天然ガス輸入会社の資金繰りを急速に悪化させていることを踏まえ、同コストを川下に迅速転嫁するルールの解禁方針も打ち出した。

ユニパーは8日、公的支援を申請した。ロシアからの天然ガス供給の大幅減を受けて調達コストが大きく膨らみ、資金繰りに懸念が出てきたためだ。調達価格が上昇しても、一定期間内は値上げできず、国内の顧客に契約で定められた量を供給しなければならないという事情がある。1日当たり千万ユーロのケタ台半ばの損失が出ており、年末までに計100億ユーロに膨らむ恐れがある。

政府はこの事情を踏まえ、救済を決定した。天然ガス調達に伴う損失が他の事業の利益で穴埋めしても70億ユーロを超えた場合、支援を行う。政策金融機関KfWの融資枠を従来の20億ユーロから90億ユーロに拡大するほか、第3者割当増資を通して約30%の出資を行う。出資額は2億6,700万ユーロ。1株当たりの取得額は1.70ユーロで、前日の終値(10.50ユーロ)を大幅に下回る。国はこのほか、転換社債を最大77億ユーロ引き受ける。同社債は満期を迎えると自動的に株式へと転換される。

国の出資を受け、ユニパーの親会社であるフィンランド国有エネルギー大手フォータムの出資比率は現在の78%から約56%に低下する。転換社債が株式化されると、国の出資比率が50%を超える可能性があるため、フォータムは転換社債の一部を国から取得するオプション件を持つ。

国が支援を行うためにはユニパーの株主と、欧州連合(EU)欧州委員会の承認が必要となる。ユニパーは臨時株主総会を招集して同意を得る意向だ。

エネルギー安定確保法(EnSiG)には調達価格の上昇分を川下に速やかに転嫁するための特別ルールが2種類、定められている。1つは調達価格の上昇分を川下に直接転嫁するというもの、もう1つはガス料金に上乗せされる分担金を通してすべての需要家に負担させるというものだ。ショルツ首相は同日、「均等価格調整メカニズム」と呼ばれる分担金方式を9月1日ないし10月1日に解禁する意向を表明した。

これに伴いガス料金は確実に上昇する。ショルツ氏によると、分担金は1キロワット時当たり2セント。ガス料金は4人世帯で年200~300ユーロ増加するとしている。一方、連邦ネットワーク庁のクラウス・ミュラー長官は先ごろ、ガス顧客が支払う料金は3倍に膨れ上がる可能性があると述べた。ショルツ氏が提示した負担増加額はこれを大幅に下回っており、整合的な説明が求められる。

価格比較サイトのベリボックスによると、ガス価格は現在、1キロワット時当たり16セントに上る。1年前の2倍に上る。

政府は市民の新たな負担軽減策を実施する意向だ。低所得層に支給している住宅手当を来年1月から増額することや、エネルギー料金ないし家賃を支払えなくなった顧客・賃借人との契約解除を一定期間禁止することを検討している。エネルギーコストの上昇で経営が悪化したい企業にも支援を行う。エネルギー集約型企業を対象とする補助金の交付期間は延長する意向だ。